自信を取り戻すこと

映画「ソウル・パワー(原題:Soul Power)」を観た。

この映画は2008年のアメリカ映画で、映画のジャンルはドキュメンタリー音楽映画だ。

この映画の時代は、1974年だ。この映画の舞台は、少しだけアメリカのニュー・ヨークが出てくるものの、主な舞台は、アフリカのザイール(現コンゴ民主共和国)だ。

1974年の9月20日から22日の3日間にかけて、アメリカとアフリカのミュージシャンを集めて、スタジアムのような大きな会場で、音楽祭を行う様子のドキュメンタリーを撮ったのがこの映画だ。

この映画に登場するアメリカのアーティストは、ジェームス・ブラウンB・B・キングミリアム・マケバ、ザ・クルセイダーズ、スピナーズ、ビル・ウィザーズなどだ。

一方、アフリカのアーティストは、フランコ・OKジャズ、ベンベ・ダンス・トゥルーブ、セニア・クルーズ&ファニア・オール・スターズ、ファニア・オール・スターズ、ダニー・ビッグ・ブラッグ・レイ、タブー・レイ・ロシェロー&アフリザ・アンテナシオナルなどだ。

最近(2023.1.28日時点)のアフリカのコンゴでは、政府とM23という反乱軍のグループが対立している。M23は少なくとも50人の市民を、キンシャサの東の町で殺している。この対立で、40万人の人たちが住んでいる場所からの移動を余儀なくされている(2022.11.5 Democracy Now! Headlineより)(1)。コンゴは、戦争が絶えない地域でもある。

コンゴキンシャサは、この音楽祭が行われた土地だ。この音楽祭はそもそも、世界的に有名なボクシング選手のモハメド・アリが、ジョージ・フォアマンとの世界ヘビー級王者決定戦に挑むのに関連して行われた音楽祭だ。

1974年の当時のザイール(現コンゴ共和国)は、政府と反逆グループとの目立った対立はなく、モブツ大統領のもとで、3日に渡る音楽祭の実行が決定された。ただ、モブツ大統領はこの音楽祭に出資はしておらず、出資は、リベリアの投資家が行っている。

この映画には、リベリアの出資者の代表が登場する。その代表者が、音楽祭の運営に厳しくチェックを入れている様子が映画の中で描かれるが、その代表者のキース・ブラッドショーという白人男性の存在がどうもうさんくさい。

ブラッドショーは、音楽祭の運営の状況を厳しく金銭面でチェックしている。音楽祭の日にちがずれると経費がかさむが、その金は一切出さない、などと厳しく、会場の設営の状況をチェックしている。

ただ、ブラックショーが、会場の設営の遅れに苦言を呈する様子が、いかにも作り物っぽい感じを映画を観る者に与える。ブラックショーは常ににやにやしていて、演技をしているかのようだ。まるで、音楽祭の開催に枷があるように。

音楽祭の進行がうまく運ばないというのは、この映画を盛り上げるために、映画撮影者が一芝居うっているかのように思えてしまう。こんなに都合よくカメラの前で、苦言を呈するものなのだろうか? そのあたりが気になる所だ。

この映画の背景には、アメリカの黒人奴隷制度の問題と、黒人の人種隔離政策の名残りの問題がある。アメリカでの黒人人種隔離政策は、1964年に公民権法が成立したことで一旦区切りがついたように見えるが、実際は黒人に対する差別は1974年当時も続いていた。

現在(2023.1.28)でも、黒人に対する暴力は続いている。2023年の1月で、カリフォルニアのロサンゼルスで警察の暴力により、黒人やラテン系の人が殺されている。

ブラック・ライブス・マターの共同設立者の黒人のパトリシー・コウラーズのいとこで英語教師でもある黒人のキーナン・アンダーソンが、警察のテザー銃で感電死させられている(2)。毎日Democracy Now!をチェックしていると、度々、警官による有色人種の殺害が耳に入る。

現在のアメリカでも、1974年にモハメド・アリが、この映画の中のザイールで語ったアメリカにおける黒人の状況は、完全には改善されていないことがわかる。アメリカ黒人を巡る状況が、そしてアメリカ社会自体の暴力が、現時点でも終わっていないことが、ニュースから伝わって来る。

この映画はジェームス・ブラウンが、ソウル・パワーを歌っているシーンから始まる。この歌を歌い「ソウル・パワー」とジェームス・ブラウンが発する度に、両腕を高く天井に向かってあげる。まるで、黒人の上にのしかかる人種差別という天井に対して拳を突き上げるように。

この映画では「ブラックネス」という言葉が使われる。ブラックネスとは、“黒人であること”という意味だ。この映画に登場するモハメド・アリや、ジェームス・ブラウンは、「黒人であることに誇りを持て!!」と映画を観る者を鼓舞する。そして、その鼓舞は、映画を観るすべての虐げられている人たちにもそう語りかける。

「Damn right on somebody!!」と、映画のクライマックスで言っているのだろうか? 筆者の英語力では、何とジェームス・ブラウンが映画の最後で言っているかはわからないが、字幕ではこう訳される。「俺はれっきとした人間だ!!」と。

すべての黒人だけではない。ラテン系や、アジア系、中東系、インド系などのすべての、優越者と自分を考えている人たちに虐げられる人たちに対して、この映画は強いメッセージを放つ。「自信を持て、君は素晴らしい」。そうこの映画は、映画を観ている者に語り掛ける。

黒人はアフリカ大陸から、アメリカ大陸に奴隷船で、足かせや手錠でつながれて、糞尿まみれになるような過酷な環境で、連れてこられた。1492年にコロンブスがインドと間違えて到着したアメリカ大陸に、黒人は無理やり入植させられた。

黒人に人権はなく、綿花畑での日々の労働は過酷だった。白人の奴隷主の家で、家事手伝いとして働かされた人もいた。黒人奴隷の女性は、白人の主人にレイプされ、妊娠させられた。その子供は奴隷として売り払われ、親子は離れ離れになった。

黒人奴隷は、奴隷だ。小屋に住まわされ、食事も粗末なもので、1つの部屋に数人が雑魚寝した。逆らうと鞭で打たれた。時には、リンチされて殺されて、死体が木につるされることもあった。

アメリカの南部に行くと今でも、黒人がつるされたような木がある。アメリカの歴史に、黒人奴隷の存在は重くのしかかる。その罪を犯したのは、白人の奴隷主だ。黒人奴隷と奴隷船と奴隷主と黒人の現在を描いた映画に、「クロティルダの子孫たち―最後の奴隷船を探して」というドキュメンタリー映画がある。奴隷船が違法であることを知りながら、最後のアメリカへの奴隷貿易を行い、その船は事実を隠すために、燃やされてその残骸は川の底に今でも残っている。

奴隷であった歴史に、公然と立ち向かい、黒人であることの誇りを鼓舞した人物たちがいた。マーティン・ルーサー・キングやマルコムX、ストークリー・カーマイケル、フレッド・ハンプトン。まだまだたくさんの人がいる。

その人たちはこうも言っているように、感じられる。「すべての人々よ、自信を、誇りを、持て」と。

 

 

 

1

Tens of Thousands of Congolese March to Demand Peace in DRC | Democracy Now!

2

Keenan Anderson: BLM Co-Founder Patrisse Cullors Demands Justice for Cousin’s Death After LAPD Tasing | Democracy Now!

 

www.democracynow.org

 

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