異人種間結婚が違法だったころ

映画「ラビング 愛という名前のふたり(原題:Loving)」を観た。

この映画は2016年のイギリス・アメリカ合作映画で、ドラマ映画である。

この映画の主人公は、リチャード・ラビングとミルドレッド・ラビング夫婦である。ラビング夫婦は、異人種間結婚が禁止されていたアメリカ合衆国バージニア(1950年当時)で夫婦として暮らそうとした白人男性(リチャード)と黒人女性(ミルドレッド)である。

この映画はドラマ映画であると書いたが、この映画の中には黒人差別以外にも、恋愛、法廷、結婚、スリラー・サスペンス、子育て、マスコミ、カーレース、酒場、音楽といった様々な要素から成り立つ映画である。

この映画の主軸となるのは、異人種間結婚が認められるまでの大筋であるが、その間に前述したような要素が盛り込まれており内容は盛り沢山である。

異人種間結婚という表現は現在では聞き慣れない表現である。人と人との結婚でしょ?そこに異人種と入れる理由は何?と思ってしまう。

アメリカでは黒人は奴隷としてアフリカ大陸から連れて来られた労働資産であった。黒人は人ではなく、白人の財産とされていた。

1860年代にリンカーン大統領により奴隷解放宣言が出されるも、その後も黒人差別はジム・クロウ法という形で続く。アメリカでは1960年代の公民権運動まで、人種隔離制度が続いており、黒人はバスの席も、トイレも黒人専用の場所しか使用することができなかった。

アメリ公民権運動(1960年代)の際には、シット・インという運動が起こった。アメリカ黒人が白人用のレストランの席に座り込み、罵声や暴力にひたすら耐えて、白人の席に黒人が座り続けるという運動である。

1967年6月12日にすべての異人種間結婚が違法であり、修正第14条の平等の保証に反していると最高裁判所の判決が下った。ラビング夫婦の愛による抵抗が、公民権運動や時代の変化によって報われたのである。

ラビング夫婦の抵抗と書いたが、2人の姿が映画中描かれるのは、ただ仲睦まじく過ごしている姿である。結婚し、子供が生まれ、子供の育て方に悩むミルドレッド。自分の家族が壊れることを恐れるリチャード。

その2人の悩みは、異人種間結婚のためというよりも、人々の日常の中にある光景として、映画を観る者には映る。黒人差別と今を生きる人々の日常が重なりあう。ラビング夫婦の生きた日常は、黒人差別との闘いの日常であると同時に、家庭を営む者誰もが抱える日常でもある。1950年代、1960年代に黒人であることの困難さと、いつの時代にもある結婚の困難さ。その両方がこの映画では前述した様々な要素と共に描かれている。