人間の善性を信じる

映画「イエスタデイ(原題:Yesterday)」を観た。

この映画は2019年のイギリス映画で、映画のジャンルはファンタジー・コメディ映画だ。

ザ・ビートルズといえば、1960年代に登場した、イギリスのリバプール出身の世界的に有名なロック・バンドだ。この映画のタイトルも、ザ・ビートルズの曲のイエスタデイを意識してつけられているようだ。

ビートルズの曲は極東の国の教科書に載るくらいにもはや広く浸透しているのだが、この映画の世界では、ビートルズを知る人間がごくわずかしかいないことになっている。

この映画の中でビートルズを知っているのは、ごく少数の人たちだ。それはこの映画でははっきりと登場するのは、この映画の主人公であるジャック・マリクと2人の老いた男女だ。

この映画でジャックは世界規模の停電の後に、周囲の人間たちがザ・ビートルズについて忘れているもしくは知らないと気付く。そして売れないミュージシャンだったジャックはこう思う。

「これで世界の金と名声は僕のものだ」と。

ジャックはその後から、ザ・ビートルズの曲を自分の曲だと偽って歌い、世界的な人気を得ていく。

この映画の中で、重要なポイントとなるのは、ジャックはビートルズの曲を盗作しているという端的な事実だ。ジャックはこのことが気になってビートルズが存在していた世界を知る人たちに、嫉まれるのではないかと考えるようになる。

するとビートルズの存在を知っているジャック以外の人たちはこう言う。「ビートルズの曲を残してくれてありがとう」と。

この点は映画の中でも非常に印象的なシーンだ。

この映画の監督ダニー・ボイルは、2019年のガーディアン紙に掲載されたインタビューに答えている。「僕は人間の善性を信じている」と。(Interview,Danny Boyle:’They should get Robert Pattison to be the next James Bond’2019.6.21.FRI)

このジャックに対する2人の答えは、ジャックを疑心暗鬼の世界から救い出す。監督の発言通りに、人間の善性が、人間に救う。この映画の主人公には、自分の売れない時代を支えてくれたマネージャーがいる。

そのマネージャーとは、エリーという中学校の数学の教師だ。ジャックは、この映画の中で善性を発揮する。それはビートルズの楽曲を、フリーのコンテンツにすること。

そして78歳まで生きていたジョン・レノンのアドバイスのように本当に好きな人のことを好きということだ。

偽善の愛からは偽りしか生まれない。素直に好きと言える相手といること。それも人間の善性のひとつの現われかたではないのか?ビートルズの曲が、人間の善性を刺激して、それが連鎖してゆく。そこには、ビートルズの曲を知った喜びが生み出した善性がある。