日常を異化する

映画「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(原題:The Nightmare Before Christmas)」を観た。

この映画は1993年のアメリカ映画で、映画のジャンルはミュージカル・アニメーションだ。この映画の舞台は、ホリデイごとの国があって、その国のうちの、ハロウィンの国とクリスマスの国だ。

この映画の内容はざっくり言ってしまえば、ハロウィンの国の主が、クリスマスの国に自分の求めていたものを見出したように見えるが…といったものだ。

この映画の主人公のハロウィン・タウンのジャックは、周囲から君は人を怖がらせるのがうまくてすごいと言って称賛されている、満ち足りているはずの骸骨男だ。そのジャックを影から見守っているのが、サリーという女性の人造人間だ。

ジャックは君は素晴らしい!!エリートだ!!と言われても、心の中にどこか満足できないものを抱えている男だ。地位も名誉も虚しい。そのジャックが求めていたものを見出すのがクリスマス・タウンだ。

クリスマス・タウンに行き、人々の満ち足りた表情を見てジャックはこれこそが自分の抱えている虚しさを満たしてくれるものだと感じる。そして、自分の君臨するハロウィン・タウンにクリスマスを再現しようとする。周囲の人たちを巻き込んで。

ジャックはクリスマスを科学的に分析して、クリスマスの夜のための準備を進めて、いよいよクリスマスの当日になり、怖いクリスマスをみんなのために演出して、クリスマスの街は大パニックになる。

軍隊に撃ち落されたジャック・サンタクロースは、自分の居場所がここにはないことを見出す。自分が普段から住み慣れた場所を離れて、自分の特性がいつもとは違う世界にいることで際立って見える。

それによりジャックは、自分の特性の得意不得意と、良いところと悪いところ、合う場所と合わない場所、などを見出すことにより、自分の心の中にある虚しさを消し去ることに成功する。

しかし、それだけでは十分ではない。いつも、違う場所に行けるわけではないし、違う場所にも限りがあり、違う場所に行き過ぎても自分の存在を異化できなくなる。つまり、違う世界が日常になってしまう。

そんな時に、ジャックを救ってくれる異化作用とはなにか?それは、恋や愛だとこの映画は訴えてくる。そしてジャックにとっての恋は、サリーへの恋として描かれるし、別の見方をすればジャックはハロウィン・タウンそのものに恋をしていることになる。

サリーはハロウィン・タウンの一部で、ハロウィン・タウンの存在そのものだ。人を怖がらせるし、不気味な存在だ。サリーはハロウィン・タウンの存在の隠喩であるということもできる。

サリーだけではない。ハロウィン・タウンの人たちはそれぞれが、ハロウィン・タウンそのものだ。街とそこに住んでいる人々は似ている。そして街の中に、自分の存在を異化してくれる存在がいる。それにより、日常を飽くことなく生きることができる。

ジャックの物語は、ジャックのことを怖がっている人間たちの物語だ。