真実を知っている人

映画「ドリームホーム 99%を操る男たち(原題:99 Homes)」を観た。

この映画は2014年のアメリカ映画で、映画のジャンルは社会派サスペンスだ。

この映画の主人公は、デニス・ナッシュという30代初頭ぐらいのシングル・ファーザーだ。デニスは、コナーという息子と、デニスの母親と共にアメリカで暮らしている。

映画の時代背景は、サブプライム・ローンが焦げ付いて、世界金融危機が発生した頃だ。サブプライム・ローンの、カラクリはこうだ。ローンの返済の信用度が劣る、いわゆる低所得者である一般の人たちに住宅ローンを組ませる。その住宅ローンは、通常の住宅ローンより金利が安く設定されていた。しかも審査基準が緩和されていたので、低所得者でもローンを組むことができた。

住宅ローンの金利は、当初は安く設定されている。そしてその後金利が上がる。住宅ローンの金利が上がった頃に、そのころ住宅バブルが起きていて、住宅の値段が次々に上がっていた背景も、銀行は利用した。値上がりした住宅を売却して借り入れを返済したり、住宅を買い替えたりするのを銀行は勧めたのだ。

金融業界の禿鷹たちは、その住宅ローンを金融商品として売り買いしていた。住宅ローンがなぜ金融商品になるのかはよくわからないが、そこは金融マンの作り出したトリックだ。住宅ローンを商品として、金融業界の禿鷹たちは利益を上げていた。

そんななか、住宅の価格が下落した。そうすると、住宅を売却しても返済の資金にはならずに、低所得者は借金を抱えることになった。そして金融マンの作り出した金融商品も、なんの価値もなくなった。

この住宅価格の値下がりにより、低所得者が借金を返せなくなった2007年ごろから始まったこの状態を、サブプライム・ローン問題と呼んだ。そしてその住宅ローンの下落は、金融商品の焦げ付きを起こし、2008年に世界金融危機が起こった。

この映画「ドリームホーム」は、アメリカの住人が、住宅価格の値下がりにより借金を抱えて、借金を返済できなくなり、自分の家を銀行に奪われ、住む家から退去させられるところから始まる。デニスは、住宅の値上がりによって、住宅を買えばいつかは高く売れるので、家のローンの支払いは必要ないと銀行にそそのかされたうちの一人だ。

デニスは、家を奪われてモーテルに暮らすことになる。モーテルは入るとベッドがあり、寝るだけを目的としている、暮らすには苦しい場所だ。そのモーテルで、住宅の立ち退きの時に仕事に使う工具を盗まれたとして、立ち退きの時にいたモーテルの他の客とトラブルになる。

住宅の立ち退きの手伝いをしているのは、デニスと同じように、住宅ローンの下落により家を取り上げられた人たちだ。そしてその人たちは、家を取り上げる実行行動を請け負っている不動産仲介業者に、雇われている。その業者のボスは、リチャード・カーバーという。

リチャードは、デニスを自分の仲間にして住宅立ち退きを手伝わせる。そのうちに、取り上げた住宅のエアコンなどをとって、そのとったエアコンなどを別の「売りに出す何も設備がない家」に設置して、その「売り出す家には」住宅の設備がないと言って、国にその設備代を払わせるという詐欺を教える。

つまり、立ち退いた人のいない家から設備をとって、別の売りに出す家にその設備を設置し、売りに出す家には設備がないと報告してあるので、売りに出す家に設備をつけるために国が出すお金を、横取りする。

また、設備をとった家には、泥棒が入ったことにして、「盗まれた」設備の費用を国に負担させる。設備を移し替えることで、2重にお金が入る。リチャードは、きれいな服を着た詐欺師だ。金融マンや銀行マンと、あまり変わりがない。

リチャードは、デニスに言う。「女には家を、次々買い与えろ。そうすれば女は、ついてくる」と。デニスは、リチャードの忠告に従う。息子と母親のために、誰か他の人の住宅ローンの下落によって借金が返せなくなって手放したプール付きの豪邸を、リチャードのもとで儲けた金で買ったのだ。

それですべては、ハッピーになるはずだった。しかし、現実は違った。デニスの母親は、デニスが買った物件の事情を知っていた。息子も、その事情を斟酌した。母と息子は、デニスのことを遠ざけるようになる。

家があれば、女は手に入る。そう思っている男たちがいる。確かに家のない男より、家持ちの男の方が魅力的に感じる女性もいる。家は生活するのには欠かせない。それが、広々とした家ならばなおよい。

しかし、すべての女性がそう思うわけではない。ローラ・ダーンの今まで演じてきた役柄に当たるような女性は、不当な手段で手に入れた住宅に喜んで住むようなことはしない。自分が、低所得者でもだ。

彼女は適正な取引について知っていて、そのうえで自分の幸福を、手に入れたいと思っている。彼女の目は、ごまかされはしない。

「家を買う時のローンの金利が安い」「値上がりした家を売ればいい」と言って、住宅ローンを勧めた信用できない銀行。そのローンを、金融商品にした下劣な金融界。政府をだまして、金を手に入れる不動産仲介者。そのすべては、彼女の目をごまかすことはできない。