性欲、恋愛、結婚

映画「XYZマーダーズ(原題:Crimewave)」を観た。

この映画は1985年のアメリカ映画で、映画のジャンルはコメディだ。

この映画の主人公は、ヴィクター・エイジャックスという青年だ。ヴィクは防犯会社に勤める青年で、恋の手引きの本を読みながら女性を口説くような、いわゆるもてない男性としてこの映画に登場する。

ヴィクはこの映画である殺人事件に巻き込まれて、その事件に巻き込まれることで、もてない男から女性を助けるヒーローになっていく。だが、映画の始まりから終わりまで女性とのセックスがヴィクの目的だ。その点でヴィクは一貫している。

ヴィクが巻き込まれる殺人事件とは、こうだ。オーデガードとトレンドという防犯会社の共同経営者がいた。ある時オーデガードはトレンドに内緒で、トレンドと共同経営している会社をレナルドというイケてる男に売ろうとする。

それを知ったトレンドは殺し屋を雇う。裏切り者のオーデガードを殺すためだ。トレンドは殺し屋を、電話帳を使って探し依頼する。その殺し屋とはファロンという大柄の男と、アーサーという髪が長くて声が高い電気を使って殺しをする男だ。

ファロンとアーサーは、白い大きな車に乗って殺しの現場にやってくる。その車にはこう書かれている。"We Kill All Size"。"すべてのサイズを殺します"。その言葉が示す通り、アーサーの持っている電気殺人マシーンには、ネズミ、人間、ヒーローといった殺す対象による電流の調整のスイッチがついている。

この映画には、ヒロインが登場する。それはヴィクが恋に落ちるナンシーという女性だ。ナンシーは、オーデガードとトレンドの共同経営する会社を買い取ろうとする男であるレナルドというイケてる男に惚れている。

レナルドは、いわゆるプレイボーイだ。付き合う女性を、次から次に変えていくような男性だ。映画中も、ナンシーとの食事を終えると別の女性を口説く。レナルドにとって性対象である女性は、誰でもいいわけだ。ただし、きっと美人なら。

ヴィクはナンシーに惚れるが、しかしナンシーはレナルドに惚れている。ヴィクは、ナンシーに惚れて食事に誘うがナンシーはつれない素振りだ。なぜか? ヴィクは恋愛に慣れておらず、そのうえ恋愛を結婚をするためのものと考えている。

そしてヴィクの考える結婚とは、セックスできる女性を見つけることだからだ。その下心がヴィクの不快な表情として表れ、その表情にナンシーは不快な顔をする。なぜなら、ナンシーはレナルドとセックスしたくて、ヴィクの性欲はナンシーにとっては不快だからだ。

恋愛というセックスの求め方と、結婚というセックスの求め方。

なぜヴィクが、結婚というセックスの相手を求めるものに対して興味を持つようになったか? それを示すエピソードが、映画の最初の辺りである。レナルドは、自分の会社が秘密で売られようとしていることを知る。

レナルドは、自分の会社がなくなり自分の妻が自分の元からいなくなるのが怖い。いくら専業主婦であるレナルドの妻ヘレンが料理が下手でも、自分専用のセックスの相手としては申し分ないらしいのだ。そう、ここでわかるのは、結婚のセックスの束縛性それがきっとナンシーが嫌うものだということだ。

近所のヴィクに、トレンドはこういう。「君もそろそろ結婚したらどうだ。結婚すれば専属のセックスの相手ができるぞ」と。それを聞いたヴィクは、不気味な笑いをする。いやらしい笑い方だ。

セックスと言えば、殺し屋2人組の1人のファロンの殺しはセックスのメタファーであふれている。窓やドアやファロン自身が、女性器と男性器に置き換えられているようであり、ファロンに襲われる女性の悲鳴はどこかエロティックで、殺人の最中に女性の足がむき出しになり、女性の股間が見えそうになることがある。殺人が、エロティックにとられているのだ。

ファロンとアーサーは殺しを家業としているのだが、実は金が目的で殺人を犯しているのではないのかもしれない。なぜなら誰を殺すべきか考えずに、アーサーは殺しの雇い主であるトレンドまでも殺すからだ。殺しのプロとしては問題だ。

ファロンが、アーサーをいじめて喜んでいるシーンがある。アーサーを、わざといじめて楽しんでいるのだ。それを知りつつ、アーサーも進んでいじめられている様子だ。アーサーが苦痛で叫ぶとファロンは大笑いをする。

この映画の監督は、スパーダ―マンシリーズを盗ったサム・ライミで、脚本はサム・ライミと映画「ノー・カントリー」を盗ったコーエン兄弟だ。映画の笑えない笑いや、滑稽な殺人者といった収まりどころのない、違和感のある映画の感覚は後のコーエン兄弟の映画でも展開されていく。この映画は、車が橋から落ちそうになるシーンなどサム・ライミ感が溢れるシーンもある。

この映画のテーマは、恋愛というより性欲の話だ。男女間の性愛。それは、恋愛とも言い換えられる。そして結婚は貞節が求められ、男性は結婚により自分専属のセックスの相手、お酒の相手、家事の労働者を得る。結婚の根底にはセックスがあり、それはいつも暗黙の了解とされる。

恋愛、結婚、セックス、殺人。これらが織り交ざっているのがこの映画だ。この映画は今の社会にある結婚観よりも、少し古いかもしれない。しかし、人間の隠そうとする性欲の本質を突くこの映画を観て発見することは多い。