大手製薬会社の闇

映画「ホネツギマン(原題:The Naked Man)」を観た。

この映画は1998年のアメリカ映画で、映画のジャンルはコメディだ。映画の脚本の共同執筆者には、映画「ノー・カントリー」でアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞をとったコーエン兄弟の弟のイーサンが名を連ねている。

この映画はコメディであると書いたが、この映画はブラックなコメディだと言える。ホネツギマンは、この映画の主人公のリングネームだ。この映画の主人公エドワード・ブリスは整体師として昼間働いて、夜にリングに上がるレスラーでもある。

この映画の展開にも絡んでくるのだが、エドワード通称エディの父親は薬剤師で、エディに自分の薬局の後を継がせたいと考えている。だがエディの方は、その気がない。なぜならエディは、人間の体に異常な執着を示すからだ。

エディは、小さいころからいじめっ子にいじめられていた。自分の体が、貧弱であるためだ。そんな時エディは、レスリングの本を目にする。そこで衝撃を受けたエディは、自分の体を体育教師の下で鍛え始める。

エディは大学生になり親に、自分は整体について学んでレスリングの選手として大学に通いたいと告げる。すると父親は激昂する。レスリングなんていうホモのゲーム何てけしからんというわけだ。

そこで家を出たエディは、整体師として働き始める。子供時代のレスリングの時からエディは人体の構造に興味を持っており、人の体を強制もしくは破壊することを得意としていた。整体師は、エディにとっての天職(?)だと言える。

家出してから家に妊娠した妻と実家の薬局の両親のもとに帰ってきたエディは、昼間は整体師、夜はレスラーという二重の生活を始める。そこで、大手製薬会社の強引なチェーン拡大のための暴力のために家族の薬局が、製薬会社により襲撃される。

そしてエディは、父と母と妻のお腹の中の子供を殺されてしまう。何とか生き残った妻も重体の状態だ。この事件によりエディは製薬会社に復讐をすることになる。

エディの信条は、こうだ。誤った体の歪みにより、人間は悪事を犯すようになる。だから自分は整体の技術を使って、人の悪事を正すのだとエディは考えている。体を矯正する。悪を正す。だけならいいが、エディは社会を正すという発想になる。

社会を正すという発想で安易に思いつくのが、不良を懲らしめるというものだ。エディは悪役のレスラーに重傷を負わせ、酒場のバイカーたちを殺す。彼らの社会的背景を考慮することなく。この点でエディは歪んだ精神の持ち主と言える。

イカー集団をエディが襲撃した時、一人の女性がボーイフレンドを殺されて、エディについていくことになる。そこでその女性は語る。「私の両親は私に暴力をふるい、私はそれが耐えられなくて家を出て、バイカーのチームに入ったの」と。

つまり、この女性は虐待の被害者で生き延びるために、しかたなく社会のつまはじきものの集団の中で生きるしかなくなったということだ。そして、このバイカーのグループの一員であるこの女性をエディは殺すことはなかった。

この女性が、バイカー集団の典型として描かれているのだろう。バイカー集団は、みな彼女と似たようなものなのだ。よってバイカー集団を殺したこと、レスラーを半殺しにしたことによりエディがいかれた殺人者であることが明らかになる。つまり観客はエディに感情移入できない。よってこの映画の悲惨さを観客は、ブラックに笑うことしかできない。

そして、この映画の最大の敵役であるのが薬局のチェーンだ。エディはこう言う。「薬は半分が砂糖で、あとは怪しい物体だ。薬よりも人間を治療するのは整体だ」と。実際に、シロップ剤の溶液の40%から60%は砂糖である。その点でエディは嘘をついていない。

アメリカで薬の問題というと、大手製薬会社パデューが開発したオキシコンチンという鎮痛剤オキシドコンの改良版であるオピオイドがある。体の痛みを訴える患者に医師がこの薬を出したことにより、この薬の中毒者が生まれた。

オピオイドはアヘンからできている。アヘンはイギリスが中国に輸出して、中国ではアヘン中毒者が出てイギリスと中国の戦争にまでなった原因の薬物だ。アヘンは体を弛緩させるだけでなく中毒になり、生活だけでなく、命を破壊する薬物だ。

そのアヘンをアメリカの医師は、鎮痛剤として中毒性に考慮せず患者に売っていたのだ。ちなみにアメリカの薬は、非常に高い。そして、違法ドラッグもだ。オピオイドを、中毒者が違法に錠剤で手に入れている。その値段は1錠10ドルといったもので非常に高い。

この映画は、アメリカの製薬会社の不正という点に着目する機会を与えてくれる。製薬会社を敵に回すような映画であるだけで、この映画の正義感は疑うことができないものとなる。この映画が撮られた1998年に、アメリカの医療や薬の価格は非常に高額だった。その状況は2007年のマイケル・ムーア監督の映画「シッコ」にも描かれている。

この映画「ホネツギマン」は、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」より早く、薬、製薬会社、巨大チェーンの悪事を描いた映画だ。