憎しみの連鎖

映画「暁の7人(原題:Operation Daybreak)」を観た。

この映画は1975年のアメリカ映画で、映画のジャンルは戦争映画だ。

この映画は、第二次世界大戦で連合国側と闘った悪の枢軸国の一つであるナチスドイツの司令官ハイドリッヒを暗殺する指令を受けた、連合国側のイギリスに亡命しているチェコ人の落下傘部隊が、チェコに降下するところから映画は始まる。

この映画の主人公はヤン・クビシュ、ヨゼフ・カブチック、カレル・チューダだ。この3人とも人殺しという戦争の暗い部分を現わしているが、この3人兵士の中で最も重い罪を犯しているのが、カレル・チューダという人物だ。

チューダは、いわゆる裏切り者だ。この映画の中で描かれるチューダの裏切りの原因は、家族だ。家族を思いやる優しい心が、自分の家族がドイツに殺されるのではないかという猜疑心や恐怖に飲み込まれていってしまう。

チューダには、妻と子供がいた。自分が連合国の部隊に参加している、しかもハイドリッヒ暗殺の計画のためにチェコに舞い戻ったとドイツが知ったら、自分の家族はナチスドイツに殺されてしまうかもしれない。

そんな恐怖に、チューダは襲われている。日に日にその苦悩は、強まっていく。そこでチューダが思いつくのは、自分の家族だけは助けてもらおうという発想だ。チューダは、チェコレジスタンスのいる隠れ家をナチスドイツに教えてしまう。

そしてそれが、ハイドリッヒを暗殺した2人ヤン・クビシュとヨゼフ・カブチックをナチスドイツに売り渡すことにつながり、結局2人はナチスドイツの兵士たちに教会で追いつめられて自殺してしまう。チューバの裏切りは、2人の死の直接的な理由の一つだ。

では、チューバは悪い奴か? それはそうとも言い切れないのが、この映画の重要な点であると言っても良い。チューバのようなどうしようもない状況に置かれてしまったら、誰もがチューバのような結果を犯した可能性がある。

チューバのことを責めることができないのが、この映画の重要な点である。その点でこの映画は善と悪がきっぱり分かれているような映画と違って、非常に後味が悪いものになっている。

そしてこの映画の後味の悪さは、映画のクライマックスにも関連する。それは、正義が勝つのではないということだ。直接的には。正義の人であるはずのハイドリッヒを殺した2人、ヤン・クビシュとヨゼフ・カブチックが映画の最後で自殺するのだ。

正義は必ず勝つ!! といった映画の醍醐味を、否定するのがこの映画だ。そしてそれゆえにこの映画は後味が悪く、そのために非常に印象に残る。戦争は善も悪もない。そこにあるのはただの人殺しなのだ、という事実がこの映画の突きつける最たるものだ。

この映画は、史実と違うところがある。隠れ家の家の母親のマリーは、トイレでUシアン化物を飲んで自殺している。そしてその息子アタはアパートで尋問されておらず、母親の生首を見せられて、情報を出さなければ父親を殺すと言われている。

戦争は、酷い。人を、どんどん残酷にしていく。ヒトラーは、チューダの自白の後に、実際はチェコ政治犯3万人を処刑している。また、1万3千人の人々がナチスドイツにハイドリッヒ暗殺の後に逮捕されている。

その中には、ヤンの恋人であったアンナも含まれている。アンナは、その後にマウサウセン強制収容所で死んでいる。ある推定では、5千人の人々が報復として殺されている(1)。また、ナチスの間違った推測によって、リディツェでは、虐殺が行われた。

1942年6月9日のそのリディツェの虐殺では199人の男が殺され、195人の女性が強制収容所に送られ、95人の子供たちが、牢屋に入れられた。このナチスの推測とは、リディツェがハイドリッヒ暗殺に関係していたという、間違った推測だ。

戦争とは、理由なき殺人かもしれない。そうこの虐殺を知ると、思われてくる。戦争で一端人が死に始めると、やみくもに連鎖的に人が殺されていく。自分の勢力が有利になるかのように、人が殺される。

しかし、実際人を殺して生まれるのは、人殺しに対する憎しみだけだ。憎しみが、連鎖していく。憎しみが連鎖して、人殺しが人殺しを呼び、ますます人が殺される。戦争は、戦争を呼ぶ。今の中東の状況も、この連鎖の結果だともいうことができる。

しかし、今の中東の憎しみの連鎖の原因は、アメリカの軍産複合体にある。戦争をすると巨大な利益が、軍産複合体にもたらされる。憎しみの連鎖の裏には、金持ちの金のための行為がある。憎しみの背後には、一部の人に利益をもたらすためという、広い範囲でみたら不利益な合理性がある。

アメリカは「暁の7人」のような映画を作っているが、実は第二次大戦中にアメリカの親ドイツ派はドイツの会社に融資を行っている。そして戦争の後も、アメリカにナチスドイツの技術者たちが移住している。

ヒトラーは、アメリカのために必要な存在だった。アメリカは、ドイツをソ連が勢力を広げすぎないようにするための防波堤の役割を果たさせようとしたという事実もある。アメリカにも親ドイツ派と反ドイツ派がいて、その両者が競い合っていたという事実がある。

連合国側のアメリカが、ドイツを支援していた。戦争に、正義はない。あるのは憎しみが憎しみを呼ぶ連鎖と、国家の中枢の考えている利益の追求だけだ。いつになったら、戦争は終わるのか? この映画を観ると、改めてそう考えさせられる。

 

 

1.Heroes or cowards? Czechs in World War II | Radio Prague International