構造的搾取

映画「スキャンダル(原題:Bombshell)」を観た。

この映画は2019年のアメリカ映画で、映画のジャンルは犯罪ドラマ映画だ。

この映画の主人公はエイルズとオライリー性的虐待を受けた複数の女性たちだが、もちろんこの映画では主人公をわかりやすく示すために3人の女性を主要な登場人物として描いている。

3人の女性とは、メディア王ルパード・マードックの経営するテレビニュースの会社の、キャスターだ。3人はフォックス・ニュースのキャスターで、レイチェル・ブレッチェン、メーガン・ケリー、ケイラだ。

フォックス・ニュースというのはアメリカの右派のケーブル・テレビで、非常に保守的な政治的態度をとる会社だ。フォックスにいた人間は、フォックス以外のテレビ局に再就職できない。なぜなら、フォックスは非常に右派的で偏っているからだ。

フォックスの社員は再就職先がない。それは、こういうことだ。テレビの仕事を続けたければフォックスの上司に逆らうな。そうすれば、お前は業界で生きていけなくなる。部下には服従が強いられる。

そのような体制の中で起こったのが、エイルズとオライリーによるいわゆる強制わいせつ、レイプ、セクハラだ。

仕事上で人は権力を持つことが可能だ。それは多くの人たちが、上意下達のピラミッドの構造が、自分が生き抜くためには大切だと思っているからだ。自分があるのは企業のおかげ。企業のためならば上司の嫌な命令でも聞く。

人は経済的に豊かに暮らしらたいと思っている。素敵な配偶者に出会い、子供をもうけ、いい学校に行かせ、仕事で成功して、広くて立地のいい物件に住む。それが、大概の人たちの持つ人並みな野望だ。

だがその人並みな野望のために多くの人が人生を苦しみながら生きていることは確かだ。なぜならその人並みな希望を叶えることができるのはピラミッドの上部の人たちだけだからだ。人並みな野望は、実は実現がとても難しいものだ。

人は成功に憧れる。男も女も。しかし、それを叶えられるのはピラミッドの上位の人たちだけだ。ピラミッドの上位に行こうと皆必死だ。

ピラミッドの上位に行くことが大切というのは、どれほどくだらない価値観かということはここでは置いておいて、この場合に重要なのは権力者たちの権力というものに対する自覚だ。

権力は合意のないセックスを可能にする。権力は合意のないオーラル・セックスを可能にする。権力はセクハラをもみ消す。権力はレイプをもみ消す。

仕事はわざわざ人の合意を取り付けない。それが、仕事だ。命令は絶対とはそういうことだ。仕事は合意を必要としていない。合意がなくても、合意があるかのようにふるまわれるのが仕事だ。

その在り方をプライベートに持ち込むと。合意のないセックスが出現する。仕事とプライベートの区別がつかない人。それが問題だ。仕事がすべてを覆っている人。仕事こそが人間のすべてだと思っている人により、合意のない強制的な行為が、この映画の場合で言うなら、レイプが可能になるのだから。

合意の前提や、合意の意味を知らない人は、合意について理解するように努めるべきなのだ。