人種、性別、階級による差別

 映画「ベル ある伯爵令嬢の恋(原題:Belle)」を観た。

 この映画の舞台は1700年代後半のイギリスである。主人公は白人貴族と黒人奴隷との間に生まれた子供である、ダイド・エリザベス・ベル・リンジーという女性である。

 1700年代の後半にはイギリスでも奴隷貿易が行われていた。つまりそこに公然として黒人差別が存在していたことになる。又、当時は女性の地位は高くなく、貴族の女性は職に就くこともできず、場合によっては遺産の相続権さえなかった。

 この映画で描かれるのは、まず第一に黒人差別であり、その次に女性差別が描かれ、三番目には身分の差別が描かれている。主人公ベルは、黒人であり、女性であり、そのベルが生きるのは階級制度を公然とした社会である。

 ベルは肌の色の違いによって苦しんでいる。自分の肌が黒いために、白人たちとは同じように扱ってはもらえない。白人たちが当然のように行使する権利をベルは持つことができない。

例えば、客人が屋敷に招かれた際には、ベルは客人たちと格式張った場では会うことが許されない。ベルはあくまでも非公式な存在なのである。

ベルは女性という性別によっても苦しんでいる。女性は職業を持つことが許されていない。女性は自分の身を成り立たせていくには結婚する以外に方法がない。ベルは父親の遺産を受け継ぐことができたが、遺産を受け継ぐことのできない女性の立場はもっと厳しい。遺産のある配偶者を見つけるしかその女性には方法がない。

ベルはイギリスの階級社会に住んでいる。階級の違う身分の者とは結婚することは許されない。身分差のある結婚など世間が認めないのだ。

ベルの生きていた時代は公然と人間の売買、つまり奴隷売買が行われていた。つまり人間が人間のための商品となっていたのである。

ベルは主席裁判官の育ての親の元で育てられるが、その裁判官が扱った事件にゾング号事件というものがある。船に奴隷を乗せて運航していたが、商品である奴隷が病気になり”傷モノ”になった。そこで船長は奴隷を海の中へ投げ捨てた。そして奴隷の所有者たちは、奴隷という商品が失われたことで、その損害の請求を保険会社にするのである。

ここでは人間が商品として扱われて、その商品の損害のために金を払えと言っているのである。人を海に投げ込んで殺しておいて、それが損害だから金を払えというのである。人をものだとしか見ていない最悪な価値観である。普通なら海に人を投げ込んで殺した罪の責任を取らされるはずだが。

ゾング号事件の判決でベルの育ての親である主席裁判官であるマンスフィールドは「人間は商品ではない」との判決を下している。この判決の後に、イギリスは奴隷制度廃止に向かったと言われている。マンスフィールドはベルとの生活の中で黒人に対する差別のくだらなさを知ったのではないのだろうか。