見た目で判断して人間違いになった

映画「ザ・ハント(The Hunt)」を観た。

この映画は2020年のアメリカ映画で、映画のジャンルはサバイバル・アクションだ。

この映画の主人公はクリスタル・メイ・クリーンシーという女性だ。クリスタルはミシシッピ州のホワイト・クロッシングの中古車販売店で暮らしている元アメリカ軍の兵士でアフガニスタン従軍もした人物だ。

ちなみにミシシッピ州に、Whites Crossingホワイツ・クロッシングという土地がある。この土地を地図で確認してみると、森と野原が続くような田舎の土地だ。クリスタルは、ミシシッピ州というアメリカ南部の田舎に住む中古車販売店の女性だ。

この映画の背景には、トランプ政権時代でより明確になったアメリカの分断がある。それは貧乏なアメリカ保守的な南部の白人と、リッチなアメリカ北部に住むリベラル・エリートの分断だ。保守はトランプを支持したような貧乏な田舎の白人で、リベラルは都会に住む金持ちで民主党支持の人たちだ。

この映画では、陰謀論が取り上げられる。アメリカ保守の白人の間には、リベラルは幼い子供たちを誘拐して人身売買しているという陰謀論が実際にあったが、この映画は陰謀論として架空の陰謀論を主題に持ってきている。

その陰謀論とは、リッチなリベラルの白人たちがアメリカ保守の人たちをさらってある土地に集めてそこで人間狩りを行っているというものだ。そして実際に、この映画では人間狩りを行っている。

この人間狩りの首謀者には、リーダー的な女性がいる。その女性の名前は、アシーナという。アシーナは非常に頭が切れて軍の訓練を8カ月受けていたような人物で、リッチな人物でもある。

この映画のラストでは、このアシーナとクリスタルの肉弾戦になる。が、この肉弾戦の最中にクリスタルは言う。「アシーナ、あなたは黒人差別や移民差別や人種差別をして白人至上主義でゲイ嫌いで反フェミニストの南部の貧乏白人が嫌いなのでしょうが、街には私と同姓同名の人がいるの。あなたは差別主義者の人物をさらってきたと思っているでしょうが、私はその差別主義者とは別人よ」と。

この発言で、アシーナの人間狩りの正当性はひっくり返される。人間狩りなので正当性とかいうこともおかしく、すでにこの時点で非合法で人間としてどうかしているので問題なのだが、アシーナはこの戦いは白人保守が始めたという。

白人保守の差別的な姿勢が、リベラルなリッチな白人を怒らせたのだと。だから悪いのは、狩られる白人保守の人たちなのだと。アシーナの白人保守主義者への怒りはわかるが、殺すのは明らかに行き過ぎた行為だ。

しかしこれは映画だ。映画の中なら何をやってもいいのだということになるのだが、そのなんでもやっていい精神にクリスタルという人物が差別発言をしていた人とは別人でアフガンで国のために戦った戦士だったということと、貧乏人がリッチを殺してリッチになるという風刺が加わる。つまりこの映画は人間狩りを否定して、差別主義者を否定して、貧しさからの脱却を肯定している。非常にメッセージのある映画だ。

人は殺してはいけない。しかしこれは映画だ。映画の中では何をやってもいい。だから人を殺した。でも結局それは人殺しでしかない。それがこの映画の冷静な考察だ。そして、映画のDVD特典でも言われているように人は見た目で判断できないのだ。

貧乏な人が、リッチを引きずりおろして、リッチになる。この引きずりおろしを、人は恐れる。しかし金持ちに再分配という名誉を与えて、貧しい人に必要なものが行き渡れば、それでオーケーなのではないだろうか?