連載 アナーキー 第21回

国は13人のホームレスに年間40万ポンド払っていたが、お金を彼らに直接与えた後では、その13人にかかる費用は年間5万ポンドに削減された。

それだけではない、最重要なのは彼らが路上生活から脱出し日常生活を送ることができるようになったということである。

つまり国は年間5万ポンドを無駄遣いしていたのである。

彼らがまともな生活を送ることができるようにして、彼らに指し出されていた福祉政策は有効ではなかったのである。

ここにはある視点が隠されている。それは13人の人たちの性根は、まともな生活を送れるほどまともなものでなないはずだという思い込みだ。彼らに直接お金を与えても、彼らはすべて無駄遣いするに違いない彼らは愚鈍なのだから。こういった考え方が福祉政策の中には隠されているのである。

つまり国はホームレスたちをみくびっているのだ。彼らはまともな思考はできないと。これが福祉政策の背後にある、持たざる人への持つ人の信頼の欠落である。

すべての人に先天的に言語体系が備わっていると言ったのは、言語学者ノーム・チョムスキーである。 [デイヴィッド・ゴグズウェル 訳/佐藤雅彦, 2007, ページ: 69]そうすべての人々に言語体系は備わっているのだ。それも多くの人の間に似た言語体系が。

その言語体系は当然、13人のホームレスにもあった。彼らはその言語体系を元に、多くの人がまともと考える考え方で、自分たちの生活を作り上げたのである。

ホームレスの思考と、国の役人たちの思考はそれほど根本においては違わないのだ。

違うとしたら、それは国の人間がホームレスを信頼していなかったということだろう。13人に直接お金を渡すまでは。

人の根は性善であるか?性悪であるか?この疑問を持つ思想家がいた。但しその思想家は、人は性善であると考えていたが。その思想家の名前はジョン・ロックである。