反撃の物語

映画「ウエスタン/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト(原題:C’era una volta il west)」を観た。

この映画は1968年のイタリア・アメリカ合作映画で、映画のジャンルはマカロニ・ウエスタンだ。

この映画の監督は、イタリア人のマカロニ・ウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネだ。また、この映画の音楽は、エンニオ・モリコーネが担当している。

セルジオ・レオーネエンニオ・モリコーネがタッグを組んだ映画は、「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」と呼ばれている。「ワンス・アポン・ア・タイム三部作」には、この映画「ワンス…ウエスト」と、「夕陽のギャングたち」(1971年)「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984年)がある。

セルジオ・レオーネ監督には、この他にも「ドル箱三部作」がある。それは、セルジオ・レオーネ監督で、クリント・イーストウッドが主演したもので、「荒野の用心棒」(1964年)、「夕陽のガンマン」(1965年)「続・夕陽のガンマン」(1966年)だ。

ちなみにマカロニ・ウエスタンとは、イタリアの映画製作者が、スペイン、アメリカ、メキシコ、イタリアなどの荒野で撮影した、西部劇のことを指す。時代的には1960年代の前半から始まる。

この映画「ワンス…ウエスト」は、アメリカ大陸を横断する鉄道の建設と、それに関係する人間たちの様子を、ドラマとガン・アクションで描いた映画だ。

アメリカが独立したのが、1776年。アメリカのゴールドラッシュが、1848年。アメリカの南北戦争終結が、1865年。アメリカの西部開拓が、1860年後頃~1890年ごろ。最初のアメリカ横断鉄道が開通したのが、1869年。アメリカ東部で起こった第二次産業革命が、1971年。

この映画「ワンス…ウエスト」の映画の設定時期は、アメリカの最初の横断鉄道の開通した1869年から、アメリカの西部開拓の終わる1890年頃の間の21年間の、どこかに当たる。

この映画に登場する鉄道会社は、「大陸横断モートン鉄道」という名だ。映画のセリフには「大西洋が見えるところから出発したが、太平洋はまだ見えない」とあるので、この鉄道会社は、アメリカの東海岸から、アメリカの西海岸を目指していることがわかる。

映画に登場する地名から、この映画のアメリカ大陸横断鉄道は、アメリカの南側を通る横断鉄道であると推測できる。映画には、「ニューオリンズ」や、「ナバホ・クリフ」という言葉が登場する。

実際に現在でもアメリカで使われている鉄道会社に、ユニオン・パシフィック鉄道がある。この大陸横断鉄道は、アメリカ南西部にある鉄道で、アメリカ東部から乗ったとすると、途中でユニオン・パシフィック鉄道に乗り換えることになる。

ユニオン・パシフィック鉄道の経由地には、ニューオリンズや、ネイティブ・アメリカンナバホ族が住んでいるアリゾナ州トゥーソンがある。映画の登場人物のセリフから推測すると、この大陸横断モートン鉄道は、アメリカの東部から開発を始めて、アリゾナ州まで線路を伸ばしていることになる。

モートン鉄道の、線路や駅の敷設には、もちろん土地が必要だ。モートン鉄道は線路を作りつつ、駅を作り、その度に、線路や駅を作る土地を獲得している。当然、住んでいる土地から離れたくない人も存在する。

そんな時に、モートン鉄道のモートンの指示で、強制的に住んでいる土地から立ち退かせて、安値で土地を買い取る手はずを整えるのが、フランクというガンマンだ。日本で言うなら、地上げをするヤクザといったところだろう。

フランクは手下を従えて、モートンの指示で、鉄道の敷設を安くスムーズに行うために、恐喝、殺人などを行っている。モートン鉄道の指示に従わない者は、殺すというのがフランクのやり方だ。

この映画「ワンス…ウエスト」は、モートンと、モートンの手下のフランクたち強奪者と、モートン鉄道に土地を奪われた人たちや、土地を奪われそうになっている人たちの対立の物語だ。

この映画の、主な登場人物には、モートンモートンの手下のフランク、フランクに兄を殺されたハーモニカ、フランクに夫を殺されたジル、モートン鉄道に縄張りを荒らされるシャイアンというならず者たちのリーダーがいる。

ジルは、ニューオリンズの高級娼婦であった女性で、トム・マクベインのマクベイン農場に、お嫁に来る。しかし、ジルがマクベイン農場に着いた時には、トムもトムの子供のティミーも、モーリンも、パトリックも、フランクに殺されていた。

この映画の冒頭は、フランクに兄を殺されたハーモニカと、フランクの手下が出会うシーンが来る。そして、その冒頭の直後、マクベイン農場の、トムと、ティミーと、モーリンと、パトリックが殺される。

ジルは、トムが、大金を持っていると聞かされていた。当時の女性に、経済的に自立できる人は少なかった。大半の女性は、結婚して、自分の食いぶちを得ていた。女性の職業には、売春婦があった。売春婦は、女性が経済的に自立できる限られた手段の一つだった。

当時の女性の職業と言えば、お針子と家政婦と売春婦があった。売春婦は比較的高い給料が得られた。しかし、当時の西部の売春婦の年齢は30歳ぐらいがメインで、一生の生業にすることができない仕事だった。そして、お針子と家政婦の賃金は、女性一人が暮らしていくにも、少なすぎる額だった。

そんな女性の境遇の中で、ジルは売春婦になることを決意し、売春婦をやめた後は、トム・マクベインの妻となって、安定した暮らしをしようとしていた。そしてトムは大金を持っていると、ジルに言っていたのだ。

トムの大金は、鉄道の開発によって得られるものだった。トムは鉄道の駅になりそうな土地に、マクベイン農場を作っていた。そして実際に、モートン鉄道がマクベイン農場の土地を欲しがった。それで、一家は、ジルを残して死んだ。

アメリカの独立から93年からほど経った時点で、アメリカは、アメリカ大陸横断鉄道の開発に至っていた。アメリカ経済の発展が急ピッチで進んでいたことになる。そこでは、ネイティブ・アメリカンが住む土地を追われ、黒人が奴隷としてアフリカ大陸から連れてこられ、アメリカの巨大農場であるプランテーションで、強制労働をさせられていた。

アメリカの侵略により、メキシコ系の現地民がアメリカの白人によって殺された。また、アメリカの鉄道はメキシコに向かって開発を進めていた。メキシコには、アメリカの傀儡政権もできる。

モートンやフランクは、強いアメリカの、侵略者であるアメリカの、代名詞的な存在だ。いつの時代もアメリカは外国に侵略している。この映画「ワンス…ウエスト」は、アメリカの実態を描いた映画でもあり、土地を奪われた現地民たちの反撃の映画でもある。