線上の記者

映画「プライベート・ウォー(原題:A Private War)」を観た。

この映画は2018年のアメリカ映画で、映画のジャンルは戦争・伝記映画といったところだろうか。

この映画の主人公は、戦場記者のメリー・コルヴィンという女性だ。メリーは2012年の2月に、内戦中のシリアのホムスで、政府軍の放った砲弾で死亡した。メリーの死んだときの年齢は50歳だ。

メリーはシリアで、政府軍に取り囲まられて砲弾の攻撃を受けている2万8千人の主に女性と子供たちを取材した際に死亡した。メリーはこの取材をテレビ中継で放映していた。そのメリーの行為は、シリア政府に自分を攻撃しろと言っているようなものだった。

メリーの死は、戦争を取材する記者たちをうっとうしく感じている政府の望んだものだった。

シリアの内戦は2020年の4月18日現在も続いている内戦だ。シリアの内戦がなぜ始まったかというと、元をたどれば、2010年にチュニジアで起こった一人の青年の焼身自殺という形での抵抗に起因している。

この一人の青年の行為が、それまで独裁政権に不満を持っていた大勢の人たちの独裁政権の抗議という形で表面化した。

このチュニジアジャスミン革命が、チュニジア以外の国である、中東の国々の民主化運動に火をつけた。その中東の国の一つがシリアだ。

シリアではアサド家がシリアを独裁支配している。シリアはイスラム教徒が90%で、キリスト教徒が10%という国だ(外務省データ)。アサドは90%のイスラム教の中の少数派の宗派に属する。

それに対して民衆の74%はアサドと違う宗派であるスンニ派だ。アサドの属する宗派はアラウィー派だ。アラウィー派は、シリアのイスラム教の少数宗派で、対してスンニ派は国の74%を占める。

国のごく少ない宗派の人たちが、軍を掌握して、74%以上の国民を砲弾で包囲しているような状況が今のシリアの状況だ。

シリア政府による、シリア国民に対する攻撃で少なくとも50万人のシリア人が殺されている。

この映画の主人公のメリーは、戦場に何度も行くことでPTSD(心的外傷後ストレス)になっている。突然の精神的な発作に悩まされ、アルコールを大量に飲み、ドラッグをやって、体はぼろぼろになっている。

メリーはリッチな暮らしに安住できない。いわば金があるアウトローだ。彼女はすでに新聞の業界では認められて、引退しても生活できるほどの地位を得ている。

しかし、彼女の現実の日常の生活の中では、生きることができない。メリーは、戦争で苦しむ人を見過ごすことができない人だ。メリーは、戦場の中を兵士と共に走りながら死んでいった線上の記者だ。