構造的搾取

映画「レ・ミゼラブル(原題:Les Misérables)」を観た。

この映画は2019年のフランス映画で、映画のジャンルは警察・犯罪・ドラマ映画だ。

この映画は3人の警察の男性を中心として動いていく。

この映画の舞台は、パリの郊外にあるモンフェルメイユという地域だ。フランス語で郊外のことをBanlieueバンリューと言う。アメリカと逆で、都市に金持ちが住んで、郊外に金のない貧しい人が住む。フランス語でバンリューと言う場合は、郊外の貧しい地区のことを連想させる。

この映画はラジ・リ監督の自叙伝的映画で、映画の中にもドローンで盗撮をしている少年が出てくる。この少年がラジ・リ監督の原体験を表現しているのだろう。ドローンでの盗撮といえば、映画「アンダー・ザ・シルバー・レイク」でも主人公の友達が、ドローンで女性の裸を盗撮しているシーンがあった。ドローンを持つ人が最初にやりたがるのは盗撮なのだろうか?

この映画の舞台のモンフェルメイユのボスケ地区は、かつてハシシやコカイン、ヘロインの順に麻薬が売られていた地域で、ムスリム同胞団がその麻薬の流行を一掃した後には、ナイジェリアの組織による売春が行われていると映画に登場する警官が言う。

この地域には黒人が多い。白人の男性は、警察官ぐらいで、住んでいる住人はほとんど黒人だ。この映画の監督のラジ・リは、マリというアフリカ大陸の国の血を継いでいる。この映画は監督によるフランス政府の黒人の扱い方への問題定義だということができる。

なぜフランスに黒人の人たちがやってくるのか?それはアフリカの人たちは現地で搾取されているからだ。アフリカは資源が採れる国だ。それが財源になり国として安定してもおかしくないはずだ。

しかし、現実は違う。アフリカの国々の資源の採取、利用をしているのは、イタリアなどのヨーロッパ諸国だ。例えば石油会社のShellやEniは、アフリカから出た石油を、ヨーロッパの財産として使用している。

そしてアフリカではさらに不安な要因として、内戦があげられる。資源を利用して国を安定させるという目的は一応はいいのだが、その指導者の立場を巡って争いが起きている。その内戦の傷をテーマとして取り上げた映画に「獣の棲む家」「海は燃えている」がある。

アフリカの災難を逃れてアフリカから近い先進国で戦争のない国に、アフリカの人たちは逃れてきている。その結果として一部の人がフランスの郊外に住みつくことになった。また、フランスはアルジェリアを植民地としていた。そのフランスの植民地での抑圧に抵抗するレジスタンスたちを描いた「アルジェの戦い」という映画もある。

フランスに住んでいるアフリカ系の住民たちは、やむなくフランスに住んでいるという状況がある。そしてそのアフリカ系の人たちが住むフランスの郊外=バンリューで警察を遣って政府が何をしているのかを描いたのがこの映画「レ・ミゼラブル」だ。

レ・ミゼラブルというと、ヴィクトル・ユゴーの小説が連想されるが、この映画はその小説の映画化したものではない。しかし、この小説とこの映画「レ・ミゼラブル」は深い関りを持って要る。それはこの映画の序盤と終わりに明確に示される。