認めたくない現実を受け入れること

映画「普通の人々(原題:Ordinary People)」を観た。

この映画は1980年のアメリカ映画で、アメリカに住むとある裕福な家族を描いた物語である。この映画に登場するジャレット家は父、母、息子から構成されている。父と母の間には2人の息子がいたが、兄の方はヨットの転覆事故で死んでいる。父の名はカルビン、母はべス、死んだ兄はバック、弟はコンラッドという名である。

詳しくは映画中であまり語られないが、バックはコンラッドと共に海(?)にヨットで出かけて、そこで悪天候に見舞われ、ヨットが転覆しその時にバックは溺れ、コンラッドはヨットにつかまって助かった。その事故が原因で生き残ったコンラッドは精神的に不安定になり、自殺未遂を起こしている。

コンラッドは映画中に2人の女の子に恋をする。1人はカレン、1人はジェニン・プラットである。カレンはコンラッドが自殺未遂をした際入院した精神病院で知り合った元患者であり、ジェニン・プラットはコンラッドが通う学校(高校?)のコーラス部で一緒になる女の子である。

コンラッドは映画中に精神分析医にかかるが、なかなか自分の本心を精神分析医に打ち明けられない。コンラッド自身の中にある苦痛とは何であるか?それはコンラッドが自殺未遂をしたことであり、ヨットの転覆事故で兄を助けられなかったことである。分析医バーガーは言う。「感情は苦痛をともなうものだ。それを受け入れろ」と。

コンラッドは精神病院で出会ったカレンの自殺をきっかけに、苦痛の感情の中に陥る。そしてその苦痛の感情が、他のことについての苦痛の感情を連鎖により呼び起こす。つまりカレンの死という痛手がコンラッドの過去にあった苦痛を呼び起こすのである。過去の痛手とはヨット事故と自殺未遂である。そしてコンラッドは苦痛に流されて死を選んでしまうのか?

いや違う。今回の苦痛の際には助けてくれる人がいた。それが精神分析医のバーガーである。この選択肢を手に入れたコンラッドは、電話でバーガーに助けを求める。そして苦痛を追体験するのである。

そしてコンラッドは過去と向き合うことができるようになる。コンラッドは自分の中にある受け入れがたいものを受け入れることができた。それによりコンラッドの症状は回復に向かうのである。

コンラッドは自縛の念が人一倍強い少年のようである。それは両親にとっては「しっかりした息子」として映る。そしてしっかりした弟より兄の方に家族の愛(この場合は父と母の愛)が向かいがちになる。

コンラッドは映画の最後に分析医とジェニン・プラットという女性のおかげで社会に復帰することができた。しかし出会いもあれば別れもある。兄バックの死以来家族への愛を失ってしまった母べスは、父と息子の元から去っていく。そして、コンラッドは独り立ちできる年齢に近いのであるが。