映画「FAKE」を観た。
この映画は2016年の日本のドキュメンタリー映画である。
この映画の中で覆される内容は、耳が完全に聞こえない作曲家の佐村河内守は実は耳が聞こえており、しかも佐村河内の作曲した曲は実は新垣隆という人物がゴーストライターとして作曲したものであったというものである。
この映画中に焦点が当てられるのは、佐村河内氏は耳が完全に聞こえないのかどうか、そして佐村河内氏は作曲が自分でできるのかどうかである。
まず第1の問題佐村河内氏は完全に耳が聞こえないのかどうかであるが、映画中の佐村河内氏は自身を感音性難聴であると宣言する。感音性難聴とは一体何か?佐村河内氏は音がねじれたり、歪んで聞こえるのが感音性難聴だと答える。
つまり、聞こえないわけではないが、完全に聞こえているかどうかはわからないということだ。
人は物事に単純に白黒つけたがる傾向を持つ。右か左か、北か南かというように。しかし佐村河内氏の難聴は、白か黒かではないグリーンゾーンの難聴である。
映画中佐村河内氏は妻である香さんの手話を通じて相手と対話をする。相手が自分に話しかけている音は聞こえるが、何を相手が言っているのかはわからないという具合に、佐村河内氏の難聴は描かれる。白か黒かではないグレーなのである。
もう1つ佐村河内氏は自身で作曲ができるかどうかであるが、この映画の最期で描かれているように、佐村河内氏はシンセサイザーを弾くことができて、譜面によらない図や機器を使った作曲をすることができる。
映画中にアメリカの著名なオピニオン誌である「The New Republic」の記者が佐村河内氏にこう問いかける。「あなたは自分で作曲ができるのか?何か楽器を弾いているところが見たい」と。
映画のラストはこの記者が問いかけた疑問に対する答えである。佐村河内氏は自身で作曲ができるのである。
映画中この映画の監督である森達也氏が佐村河内氏に言う。「私は佐村河内さんを信じています。あなたは私を信じているのならば私に嘘(fake)ではなく本当のことを話して下さい」と。
この問いに対して佐村河内氏は黙り込む。あなたは嘘をついているのか否か?これは人が誰しも思う他者に対しての問いかけである。そしてその答えは白か黒かで明確に分けられるものではないのだろう。