侵略者

映画「ウォーカー(原題:Walker)」を観た。

この映画は1987年のアメリカ映画で、映画のジャンルは戦争ドラマ映画だ。

この映画の舞台は、中央アメリカのニカラグアだ。映画の時代は19世紀半ば頃で、映画の主人公は実在の人物であり、映画のタイトルにもなっている、ウィリアム・ウォーカーだ。

ウィリアム・ウォーカーは、フィリバスターと呼ばれる類の人だ。フィリバスターとは、「他国で非合法な軍事行為」によって「革命、反乱、分離独立などをおこし、政治的、経済的な利益を得ようとする者」のこと。

「具体的には、19世紀のアメリカ合衆国人で、中南米においてそのような行為を働いた人々を指すことが多い。また、フィリバスターによって行われた行為を指すためにも」フィリバスターという言葉は「用いられる」。

フィリバスターという言葉で、現在通常思いつくのは、アメリカの議会の採決で、議会の決定の時間を延ばすために、トイレに行かないようにするために尿道カテーテルまでして、法律の制定の提案の演説を長くし続ける議員のことだ。

このフィリバスター(filibuster)という言葉は、言葉の由来が3つあり、スペイン語の、filibusteroという言葉に由来していたり、フランス語の、fibustierに由来していたり、ドイツ語vrijbuiterという言葉に由来していたりしている。

スペイン語のfilibusteroという言葉は英語のfreebooterに当たる。フランス語のfibustier、ドイツ語のvrijbuiterは英語のpirateに当たる。Freebootは“海賊行為をする、略奪する”という意味で、pirateは“海賊”や“海賊行為を働く”“…を略奪する”という意味だ。

つまりfilibusterという言葉は、略奪行為をするという意味の言葉を、ルーツに持つ言葉だ。ちなみにfilibusterという語を英英辞典で引いてみると、“外国で内密な軍事行動で交戦する冒険家”と出てくる。

19世紀半ばを代表するフィリバスター、つまり略奪者は、ウィリアム・ウォーカー、ナルシソ・ロペス、ジョン・クイットマンの3人がいる。このうちのナルシソ・ロペスを除く2人が、アメリカ人だ。

ウィリアム・ウォーカーは、コーネリアス・ヴァンダービルトという海運業と鉄道業で財を成したアメリカの実業家に、中米のニカラグアに行って、ニカラグアを占領してこいと言われる。

ニカラグアの、大西洋から太平洋に抜けるニカラグア湖を通る運輸のコースが、当時中米を貫くコースの候補地として有望視されていたためだ。現在では、大西洋と太平洋を結ぶコースとしてはパナマ運河が有名だ。

1800年代中頃のニカラグアは、内戦(シビル・ウォー)状態で、政局が不安定化していた。その政局が不安定な時期に、ヴァンダービルトはニカラグアに攻め込もうとした。これは、災害などが起こっていて、その国の内状が不安定な時期に、外国資本が国内の経済を奪っていくという、ナオミ・クラインが言う、ショック・ドクトリンと似ている。

映画の中では、ウォーカーは、エレンという聾唖の妻をコレラで失っている。映画の中ではこのエレンという妻は、ウォーカーの中に残された、良心の象徴として描かれている。エレンなきウォーカーは、死を願う、生きた死人だ。

映画中、ウォーカーは、銃撃戦の中を、黒い服を着て、ただ目的地に向かって、直立姿勢のまま、歩き続ける。ウォーカーは勇敢なのか? それは違う。ウォーカーは、ただ死にたいだけだ。ウォーカーは、死に場を求めて歩き続ける。

妻のエレンの死で、ウォーカーが失ったものは、良心だけではなかった。この世に生きる喜びを、ウォーカーは失ってしまった。だから、ウォーカーは銃弾など眼中になく、ただ、死に場を求めて歩き続ける。

この映画が撮られたのは、1987年の3月12日から1987年の5月までの期間だ。その当時のアメリカの大統領は、ロナルド・レーガン。そうイギリスの首相サッチャーとともに、新自由主義を推進し、ミスキート族などの反サンディニスタの人たちを、コントラとして組織して、ニカラグアのサンディニスタを攻撃したのがレーガン政権だ。

この映画の撮影の期間の直前に起こったのが、ニカラグア事件と、イラン・コントラ事件だ。ニカラグア事件とは、「1984年4月9日にニカラグアが違法性の宣言や賠償行為などを求め、国際司法裁判所(ICJ)にアメリカを提訴した国際紛争」のことだ。

ニカラグア事件では、ICJがアメリカの軍事活動の違法性を認め、アメリカからの賠償を求めたが、結局アメリカは賠償を払っていない。アメリカは過去に、ウォーカーやコントラニカラグアに送り込んで、ニカラグアへの戦争を始めたにも関わらずだ。

イラン・コントラ事件とは、「アメリカ合衆国ロナルド・レーガン政権が、レバノンシーア派テロリスト集団に捕らえられているアメリカ人の解放を目的としてイランと裏取引をした上に、アメリカ国家安全保障会議から同国へ武器を売却し、さらにその代金をニカラグアの反共右派ゲリラ「コントラ」の援助に流用していた事件」のことだ。

ここで覚えておくといいことは、アメリカは悪の立場にいるということだが。そして、もう一つ言えるのは、世の中に完全なものなど何もないということだ。そう、つまり、完全な悪などなくて、世の中には間の抜けた悪しかいないということ。

例えば、映画「ジョーカー」(2019)に出てくる、ジョーカーは完全な悪か? ジョーカーは、完全な悪ではない。ちなみに、映画「ダークナイト」(2008)に出てくるジョーカーも完全な悪ではない。どちらの映画のジョーカーも、完全な悪ではない。

映画「ジョーカー」の中のジョーカーは、不平等に怒っているマイノリティだ。完全な悪は、不平等への怒りという正義のようなもののために、悪事を行ったりしない。映画「ダークナイト」の中のジョーカーも完全な悪ではない。完全な悪なら、爆弾を仕掛けられた二艘の船にお互いの起爆装置を交互に持たせて、人間の良心を試したりしない。悪なら、二艘とも瞬時に爆破する。

この映画「ウォーカー」の主人公、ウィリアム・ウォーカーも完全な悪ではない。完全な悪なら、自ら銃の前を防御もせずに歩き続けたりしない。ウォーカーも、アメリカも、ジョーカーも不完全な悪だ。

この映画「ウォーカー」の中の主人公ウォーカーは、女性の扱いに慣れていない。それが、ウォーカーの暴走をさらに加速する。人は何かしら欠点というものを持つ。ウォーカーは医学部を出ているインテリだが、性格的には大きな問題があった。

世の中に完全な悪などいない。アメリカも、ジョーカーも、そしてウォーカーも、不完全な、滑稽な悪だ。意図せずして、本人の思惑を越えて悪になってしまった。それが悪の正体なのだろう。

 

 

 

ウィキペディア「ウィリアム・ウォーカー」2022.4.2閲覧 以下同一日閲覧

「Anastasio Somoza Debayle」

フィリバスター

「Filibuster」

「Narciso Lopez」

「John A. Quitman」

コーネリアス・ヴァンダービル」

Cornelius Vanderbilt」

コントラ戦争」

ニカラグア

「ミスキート族」

ニカラグア事件」

「イラン・コントラ事件」

Googleマップパナマ運河

IMDb「Walker」

 

American Heritage (R) Dictionary-5th Edition "filibuster""freebooter"

Oxford Dictionary of English, 2nd editon "filibuster"