音響は映画のかなめ

映画「ようこそ映画音響の世界へ(原題:Making Waves:The Art of Cinematic Sound)」を観た。

この映画は2019年のアメリカ映画で、映画のジャンルはドキュメンタリーだ。

この映画は、主に3人の音響デザイナーを中心として進んで行く。音響デザイナーと映画そして映画監督との関係、映画の音響の技術の移り変わりを94分という映画としては比較的短い時間に収めたのがこの映画だ。

3人の音響デザイナーとは時代順にウォルター・マーチベン・バート、ゲイリー・ライドストームだ。他にも女性の音響に関する仕事の人が出てくる。音響の世界では女性の活躍もみられる。映画監督は依然として男性が多いが、音響の世界は女性が活躍することができる場所であるかのようにこの映画では描かれている。

ここでは映画のメインとして大きく取り扱われる先に挙げた3人の音響デザイナーを通して、映画の音響の移り変わりを解説していきたい。

まずウォルター・マーチであるが、彼は映画「ゴットファザー」や「地獄の黙示録」の音響のデザインをしたことで有名だ。マーチは、1953年ごろのパリの具体音楽と同じことを子供時代にしていたと語っている。

そのマーチの子供時代に作った音楽とは、ラジオの音声を録音して、そのテープを切り離してつなげて、それを再生したり、逆回転で再生したりするものだった。それはいわゆるジョン・ケージのような実験音楽を思わせるものだ。

いつか具体音楽をやりたいと思っていたマーチは、映画会社に入社して具体音楽をする機会を得る。それは実験音楽の作曲者として表に出るというよりは、映画の裏方に回るといった感じだったが。

マーチはゴットファザーで主人公が人を殺す際に主人公の気持ちを表すために音響を用いた。それにより映画のそのシーンはより迫力があるものになっている。

マーチの次に映画で紹介されるのは、ベン・バードという人物だ。ベンは、映画スター・ウォーズの音響デザイナーをしたことで有名だ。スター・ウォーズはコンピューターで作られた音ではなくて、実際に街のあちこちで採集した音を使って映画音楽が作られている。

チューバッカの声は、熊の子供から採った音が使われている。その他にもバートはスター・ウォーズの音響デザインのために、1年をかけて効果音を集めている。どの音をどこで採ったかは、地図にしめされている。バードは、コンピューターの作った音を使わなかった。

その後に紹介されるゲイリー・ライドストームは、ピクサートイ・ストーリーの音響デザイナーをしたことで有名だ。トイ・ストーリーの音響ではコンピューターが全面的に使われた。またジュラシック・ワールドの音響もライドストームの音響デザインで、コンピューターが使われている。

映画音楽の世界は男性の世界かと、この映画の主要な流れを見ていくと思われるかもしれないが、実は音響の世界で活躍する女性は思ったよりは多い。パット・ジャクソンがメインとして女性代表といった感じで登場する。

例えば映画の撮影で野外で撮影した時に、映画に登場すると映画の意味合いが変わってしまうような音響は取り除かれなければならないが、その作業に長けていて音響のデザインを見事にこなし評価された女性もいる。親子で音響の世界で活躍する2人の女性といった人物もいる。

トーマス・エジソンが蓄音機を発明した1877年から始まり映像と音楽を一つに合わせる努力がなされた。声と効果音を映画に合わせるのだ。初期の映画では、声と効果音はスクリーンの裏で実際に出されていた。

その後映画と音響が統一された後は、例えば時代劇の撮影に現代の音が入り込んでしまわないように防音の施設が使われた。その後音響の世界は、ラジオで先に発達する。その音響の空間的使い方を先に行ったのがオーソン・ウェルズだ。

映画スタジオは音の量産を行った。先にあらかじめ効果音を作っておくのだ。それで映画は工業製品のようにあらかじめ作った音のストックが使いまわされた。そのような状況に不満を抱いている人たちもいた。その中の一人は先に紹介したベン・バードだ。

その他にもサウンドシステムが、マルチトラックになったことも映画にとっては画期的だった。役者一人一人にマイクをつけたのだ。また映画のスピーカーを部屋を囲むように置いて、音の配置をするようになったのも画期的なことだった。

映画音楽は映画の出来を左右する。この映画の中に登場する有名監督のスピルバーグジョージ・ルーカス、コッポラはそう伝えている。映画音楽は映画のかなめだ。音響のない映画はどこか物足りない映画ではない映画ということができるかもしれない。