性的異常者そして虐待

 映画「ドラゴン・タトゥーの女(米題:The Girl with the Dragon Tatto)」を観た。

 スウェーデンの小説家(ジャーナリスト)であるスティーヴ・ラーソン3部作「ミレミアム」の第1部である「ドラゴン・タトゥーの女」を映画化したものである。内容としてはミステリーで、残酷な描写もある(残酷な描写はミステリーにつきものなのだろうか?)。

 物語の主要な人物は2人いる。一人はジャーナリストの中年男性ミカエル・ブルムクヴィストで、もう一人は天才ハッカーの女性リズベット・サランデルである。

 この物語で描かれているのは、男性による女性の虐待である。この映画の元となった小説には、スウェーデンの女性虐待の実情が挿入されている。この映画の中の虐待の犠牲者は誰か?それはこの物語の主人公の一人であるリズベット・サランデルであり、物語のキー・パーソンでもあるハリエット・ヴァンゲルであり、その他多くの殺害された女性たちである。

 雑誌記者ミカエルは、ヴァンゲルという大企業の元経営者である男に、行方不明になったハリエットの殺害者を探すように求められる。その捜査を助けるのはリズベットである。

 物語のオチとしては、ハリエットは死んでおらず、自分をレイプする父と兄(ヴァンゲル・グループの重役者、兄:マルティン、父:ゴッドフリード)から逃げてロンドンにいたということになっている(小説ではオーストラリアだが)。

 そして、その父と兄は、多数の女性を虐待し殺していた。なぜ彼らは多数の女性を殺したのか?それは、女性の虐待、殺害が彼らの性的興奮の方法、セックスの方法だったからである。

 物語の中で殺人鬼マルティンはこう言う。「私は、女性が死を覚悟したのを見ると勃起するのだ」と。この父と兄は明らかに性的異常者である。

 この映画の中ではもう一人の性的異常者が登場する。それは精神薄弱者とされているリズベットの後見人である弁護士ビュルマンである。ビュルマンは自分の許しがないと高価な物が買うことのできないリズベットの弱味に付け込んで、国の機関にリズベット自身が精神的異常者であると報告されたくなければ、自分と性的行為をしろとリズベットを脅す。そして彼女を2度レイプする(物語の中でリズベットは復讐として彼にレイプ仕返す)。

 弁護士や会社経営者という皆の模範となって“規範的であるべき人物”が物語の中では時として、社会的に有利な自分の立場を利用して女性を虐待し殺害する。特にハリエットの父と兄は、キリスト教のテキストに基づいて殺害を決行している。ここでは規範など正しい行いの手本でも何でもない。規範が犯罪の手助けをしているのだ。

 

※ハリエットの兄マルティンも虐待の犠牲者である。彼は父から性的虐待を受けていた。マルティンはそれを義務だったと表現する。