アメリカン・ドリームを許容しないと、大人にはなれないのか?

映画「アリゾナ・ドリーム(原題:Arizona Dream)」を観た。

この映画は1992年のフランス映画で、映画のジャンルはブラック・コメディだ。

この映画の主な舞台は、アメリカ合衆国アリゾナだ。アリゾナでは、先住民が後にアリゾナと呼ばれる地ですでに採鉱を行っており、後にスペイン人がやってきて、その採鉱を工業化させた。

この映画の、主要な登場人物のエレインとグレースは、アリゾナの銅採鉱の会社の経営者で、お金持ちだ。そして、エレインとグレースは、その銅採鉱の会社のことで、精神的におかしくなっている。

この映画の主人公は、アクセルという23歳の青年だ。アクセルは、ニュー・ヨークで漁業をして暮らしているが、そんなアクセルを、アリゾナで自動車販売で優雅な暮らしをしているアクセルの叔父のレオが、部下の男を使ってアリゾナにアクセルを呼び戻す。

アクセルが、自動車販売の仕事を、レオに無理やり勧められて、仕方なくアクセルが、キャデラックを売っていると、そこにエレインとグレースがやってくる。それが、アクセルとエレインとグレースとの出会いだ。

エレインはその時、レオの部下と、鍵をかけた部屋でいちゃつき、グレースは、「私の夢は死ぬことよ」と初対面のアクセルに話す。ここからわかるように、自動車販売業も、エレインもグレースも、明らかにおかしい。

セールスマンは、専業主婦にセックスを提供して、見返りに商品を買ってもらう、という営業スタイルをとっていたと聴いたことがある。自動車販売業も、似たようなものだと、この映画「アリゾナ・ドリーム」では描かれている。

この映画で、最も狂っているのは、エレインとグレースが営む銅採鉱会社だ。そのことは、映画では描かれない。アリゾナ・ドリームというのは、アメリカン・ドリームのことで、それを体現しているのが、エレインとグレースが営む採鉱業だ。

アリゾナでは映画の中だけでなく、実際に銅採鉱が行われている。銅採鉱では、鉱石を掘り出し、その掘り出した鉱石の1%から、銅が取り出される。銅採鉱をすると、ほこりが出て、それが環境や人体を汚染する。

また、銅採鉱をすると、99%の尾鉱が出て、それはそのまま土地に放置される。尾鉱からは、有害な液体が出て、土地や水を汚染する。つまり、銅採鉱は環境や体に悪い。現に、アリゾナは、採鉱業のために、水や大地や空気が汚染されている。

そのような銅採鉱は、先住民の住んでいる土地で行われる。すると、銅採鉱で健康被害に遭うのは、現地民つまりアメリカ先住民の人たちだ。アリゾナアメリカ先住民の人たちは、きっとスペイン人によってアリゾナの銅採鉱が工業化された時点から、銅採鉱による健康被害に遭っている。

この映画「アリゾナ・ドリーム」は、銅採鉱のことには触れられない。エレインとグレースは、きっと銅採鉱の現実によって、精神的におかしくなっている。そして、エレインとグレースの姿が、アメリカン・ドリームを体現したものの姿だ。

エレインとグレースは、銅採鉱の負の側面も知っている。それは、環境・人体汚染であり、汚染の原因を作っている者たちの、周囲からの軽蔑と絶縁だろう。エレインとグレースには、お金目的の男たち以外に誰も寄り付こうとしない。

アメリカン・ドリームは人を殺す。それは、メタファーではなく、銅採鉱で実際に、環境や人体が汚染されている。アメリカン・ドリームという、理想で描かれた物質的充足を目指すと、幸福ではなく、崩壊がやってくる。それが、この映画で描かれることだ。

銅採鉱で世界的に有名なのがチリだが、ここではペルーの銅採鉱の現状について語りたい。ペルーはチリに次いで、世界第2位の銅の産出国だ。ペルーの銅採鉱で、ペルーの多国籍企業は銅採鉱や技術革新などを売るサポート・サービスで莫大な利益を上げている。

そして、ペルーの現地にお金はわずかしか落ちず、銅採鉱でペルーの現地の環境は汚染され、それと同時に現地民の人体も汚染される。現地民は、地元で農業ができなくなり、現地民は銅採鉱を行う多国籍企業にプロテスト運動つまり、抗議活動をする。

すると、多国籍企業が雇った軍隊や、多国籍企業と癒着した警察がやってきて、現地民に暴力を振るい、女性の活動家は、レイプされたり、殺されたりする。男性も、レイプの対象になる。

その銅採鉱で採れる、銅を使って作られるのは、ソーラーパネル、電気自動車、風力発電、パソコンなどの電子機器だ。つまり、パソコンを使ってこの文章を打っている筆者自身も、多国籍企業の現地民に対する暴力に加担していることになる。

つまり、パソコンを使う人は、ペルーの女性活動家を、間接的にレイプして殺している。それは、今、NECのノート・パソコンを使っている、筆者自身も同じことだ。ただ、もはや、パソコン、もっと言ってスマホはビジネスにプライベートに欠かせないものになっている。

第三世界を搾取して、先進国が儲ける仕組みのことを、エクストラクティブ・キャピタリズムという。それは、アメリカの先住民の居住地で行われ、ペルーでも行われている。そして、鉱物は世界の各地で産出されて、そこでは必ず汚染が生じる。

大量採取・大量生産・大量廃棄。それが、近代化・工業化・植民地化がもたらしたものだ。そこでは、莫大な利益を上げる一部のスーパーリッチが存在する。そして、それにより健康被害を受ける人たちが存在する。

近代化・工業化・植民地化、それが今の呪われた世界を作り出した。便利・快適を追求すると、必ず大きなしっぺ返しがある。近代化・工業化・植民地化こそ、アメリカン・ドリームであり、それは、他の先進国でも、もてはやされる。

アメリカン・ドリームは“スイーティー”で、誰もが想像しやすく、誰もが欲しがる。ただ、そこには大きな落とし穴がある。それが、この映画では直接描かれない銅採鉱の環境汚染であり、この映画が直接描く、利益のために精神が病むことだ。

アメリカン・ドリームは、結局は一部のリッチな人たちのためにある。リッチな人たちは、汚染された環境に住むことはない。だが、リッチな人たちもフォーエバー・ケミカルからは逃げられないかもしれないが。

先住民が、アメリカン・ドリームを思い描くという夢をアクセルは見る。その夢をアクセルは良い夢だと言う。その時、アクセルは、アメリカン・ドリームの真の姿を知らないのだ。

アリゾナ・ドリーム 3m43s アクセルが見る先住民イヌイットの夢 Universal Studios 2007 StudioCanal 1993

アリゾナ・ドリーム 18m15s アクセルと叔父レオ Universal Studios 2007 StudioCanal 1993

アリゾナ・ドリーム 31m33s 義母エレインとサングラスをかけた義娘グレース Universal Studios 2007 StudioCanal 1993