正義のための犠牲

映画「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺計画(原題:Anthropoid)」を観た。

この映画は2016年のチェコ、イギリス、フランス合作映画で、第2次世界大戦時のチェコを描いた映画である。第2次世界大戦時の悪の枢軸国とは、日本とドイツとイタリアであるが、この映画の中の悪とはヒトラー率いるナチス・ドイツである。

ヒトラーの部下であるナチス親衛隊の幹部ラインハルト・ハイドリヒは残虐な殺人で有名だった。ハイドリヒは、レジスタンス(抵抗組織)や、ユダヤ人や、一般市民を残酷な方法で殺していた。

ナチス・ドイツチェコを占領する。しかしチェコにもナチス・ドイツに反抗するレジスタンスが存在した。そしてレジスタンスは、ナチス・ドイツという共通の悪に対抗して、連合国軍(正義の側とされる)と組んで戦っていた。

この映画は、ナチス・ドイツのハイドリヒの暗殺と、その暗殺を実行した人々のその後を描いている。

チェコ政府はロンドンに亡命政府として存在していた。その亡命政府からの命令により、ドイツ占領下のチェコにパラシュート隊が送り込まれた。パラシュート隊とは、敵国にばれないように侵入する落下傘部隊のことである。

チェコには当時、何人ものパラシュート隊が送り込まれていたが、そのうちの2名がハイドリヒの暗殺という目的を持つエスラボイド作戦のためにチェコに侵入した。その2人の男性はヤン・クビシュとヨゼフ・ガブチークである。

亡命政府から派兵された2人はチェコ現地のレジスタンスと協力しながら、ハイドリヒ暗殺を実行しハイドリヒを暗殺する。しかし、ハイドリヒの暗殺後ヒトラーの部下であるカール・フランクが、レジスタンスとパラシュート隊を追い詰め、殺害する。

そしてパラシュート隊とレジスタンスが見つけ出される前に3000人のチェコの市民がナチス・ドイツによって殺されている。この様子は1943年の映画「死刑執行人もまた死す」でも描かれている。

連合国側の戦士たちは自らの正義のためにハイドリヒ暗殺を実行するが、自らの行いにより増々一般市民が傷つくことになる。正義だったはずが、いつの間にか何が正義だか不確かになる。

パラシュート隊の兵士は、ハイドリヒ暗殺の指令を受けた、ただの兵士である。この計画の指令層の姿はこの映画では一切出て来ない。手足は見えるが、脳が見えないのがこの映画である。

戦争が始まると憎しみが連鎖していく。殺しが殺しを生み出す。この連鎖に終わりは来るのか?その連鎖の終止符を打つものとしてこの映画が機能すればいいのだが。憎しみの連鎖を断ち切る一つのきっかけがこの映画になるのではないのか?