民主化を閉ざすことはできない

映画「タクシー運転手 約束は海を越えて(原題:택시운전사、英題: A Taxi Driver)」を観た。

この映画は2017年の韓国映画で、1980年に実際に韓国の光州であった光州事件を題材とした映画だ。

1979年に韓国の独裁者だったパク・チョンヒが暗殺されると、その後を軍部が支配することになった。

国民は独裁を望んでいたか?否、国民が独裁を好むはずはない。国民は韓国の民主化を望み、軍部による独裁に反抗した。

1980年の韓国の光州で、軍部独裁政権と国民との対立が明白に現れた。学生たちを中心とした国民たちは、軍部独裁政権に対してデモを行った。すると軍部独裁政権は街に戒厳令をしき、一切の政治的活動をねじ伏せようとした。

軍部による独裁政権は、国民に対して実弾を打ち込み、国民を惨殺した。この時、複数の、少なくとも154名が死んだが、軍部独裁政権はこの事実をうまくもみ消すように放送した。

例えば、1日に数十名の一般人が死んでいるのにも関わらず、「今日は民主化運動による暴力的な行為が行われて、軍人が5人、市民が1人死亡しました」というような偽ニュースを発表して、光州以外の場所には、光州の民主化運動の実態を隠そうとした。

光州の実際の様子を書いた新聞記事は検閲により、紙面が真っ白になった。地方新聞を軍部独裁政権は弾圧していたのだ。

光州で実際に起こっていることが、光州の外にはわからない状態。この状況を打破すべく、動いたのがこの映画のタイトルにもあるように、タクシーの運転手と、そしてそのタクシー運転手が運ぶドイツ人記者だった。

ドイツ人記者のユルゲン・ピンツペーターは日本から1980年の5月20日に韓国に入国して、光州に向かい、光州の実際の様子をビデオカメラに録画した。その時ピンツペーターをソウルから光州まで連れて行き、又ソウルへ帰ってくる役割をしたのが韓国人のタクシー運転手だった。

この映画の中で登場するタクシー運転手である主人公は、光州事件について知らない観衆と同じように無知だ。しかし、この運転手は光州へ行き、光州の学生やタクシー運転手そして住民と触れ合う中で、その時光州で起こっていた軍部独裁政権による民主化運動弾圧、具体的には民主化運動をする者や、それを助ける者への暴力の残酷さを知っていくことになる。

この映画は光州事件の実態を知らない鑑賞者に対し、タクシー運転手(主人公の)に鑑賞者を重ねることを行わせ、この映画の理解度、共感度を上げることに成功している。我々は光州の悲劇をこの映画を通して感じることができる。