過剰なコントロール

映画「影なき狙撃者(原題:The Manchurian Candidate)」を観た。

この映画は1962年に公開されたアメリカ映画で、世界が東側と西側に分かれて、冷たい戦争を行っている最中に作られた、東西冷戦の一つの出来事である朝鮮戦争を背景に持つ映画である。

映画の原題である“The Manchurian Candidate”とは「満州の志願者」というような意味である。この映画に登場する満州とは中国の東北部を指すものと思われる。映画のアメリカ兵たちは、中国東北部(満州)で東側諸国により洗脳される。

東側諸国は、西側諸国の支配を望んでいる。東側諸国は洗脳されたアメリカ兵の一人レイモンド・ショーの母親を使って、アメリカ合衆国の大統領候補に、東側の操り人形となるような人物を送り込む。つまりそれが映画タイトルにあるCandidate(志願者、候補者)である。

つまり映画の原題のThe Manchurian Candidateとは、中国東北部満州に集結するような東側の指導者たちが送り出してきた、アメリカ合衆国(もちろん西側)の大統領候補のことを直接には指していると思われる。

この映画の実質的な主人公は2人いる。東側諸国に満州で洗脳されたアメリカ兵のレイモンド・ショー軍曹と、ベネット・マーコ大尉である。

2人とも洗脳されているのだが、レイモンド・ショーとベネット・マーコは精神を病みつつも、片方のレイモンド・ショーは精神が分裂したような男であり、もう片方のベネット・マーコは洗脳されつつもダークサイドと闘い、あくまでも自身の中の正義に忠実であろうとする男である。

レイモンド・ショーの分裂とは、アメリカ合衆国の一市民としての側と、東側諸国に洗脳された殺人マシーンの側との分裂である。レイモンド・ショーは自ら望んで殺人を犯すわけではないのである。ショーが殺人を犯すのは、東側諸国の陰謀のためであり、直接的には東側諸国の手先である母が、東側諸国の意向をショーに伝えるのである。

ショーは電話や母の「トランプ占いをしろ」という言葉により催眠状態に入る。ショーは自身のコントロールを失っているのである。

映画の途中で、ショーの恋人の父親であるアメリカ左派の人物が、ショーの母親がコントロールする大統領候補となる右派の人物に対して「あなたがたはソ連(東側のリーダー)よりも悪である」と言う。

実際に映画の中でショーの母と義父であるアイスリン議員は、東側のコントロールからも脱しようとする。というのも東側の手先であったアイスリン議員をコントロールしているショーの母が東側に反旗をひるがえすからである。

ショーの母は言う。「私たち親子を利用した東側に反逆するのよ!!」。母の強いコントロールからショーは抜け出すことができない。これはショーに対する母の過剰な抑圧である。そしてその母は、アメリカを裏切るだけでなく、東側を裏切る。ショーの母は自らを主人とする国家を作ろうとしたのである。その国が良い国になるかどうか、それは疑問である。