支配欲

映画「ワイルド・パーティー(原題:Beyond the Valley of the Dolls)」を観た。

この映画は1970年のアメリカ映画で、ショー・ビジネス界の若者たちの混沌とした日常を描いた映画である。

この映画の中心となるのは3人組の女性バンドとそのマネージャーである。ケリー、ペット、ケイシーから成る3人組の女性バンドと、そのマネージャーのハリスは音楽の世界で成功するために各地を公演して廻っていた。

そんな時バンドのヴォーカル・ギターであるケリーの叔母が100万ドルを遺産として受け取ったとの知らせが、ケリーの元に届く。ケリーは自らの亡き母が貰うはずだった遺産の相続のために、叔母スーザンの元に行く。

そのスーザンはショー・ビジネスで仕事をする人物で、ロニー・バーゼルという男と繋がりがあった。ロニー・バーゼルはZマンとも呼ばれる男装者で、業界の仕掛け人であった。そのコネを生かしてケリーとペット、ケイシーは音楽業界で成功をおさめていく。

しかしその成功に反するかのように、マネージャーのハリスは心傷ついていくのだった。ハリスはケリーを愛していた。時はフリー・セックスの時代だったが、ハリスはケリーという一人の女性を求めていた。お互いに一対一で付き合って生きていくことをハリスは望んでいた。

この2人は最後には結ばれることになるのだが、この物語の背景となるショー・ビジネス界の結末はハッピー・エンドではない。

ロニーは男装者であると書いたが、ロニーは映画中男性として振る舞っているが、実は体も心も女性である。ロニーはランスという美青年を愛するのだが、その愛は残酷にも踏みにじられる。

ロニーは自らの権力を使い、ランスを自らの愛のしもべにしようとするのだが、ランスに「この醜い女め!!」とののしられる。ロニーはその言葉に激怒しランスの首を自宅にあった“エクスカリバー”で切り落とす。

ロニーはランス(たち)変装ごっこをする。「自らはスーパー・ウーマン役だから私が一番美しい。スーパー・ウーマンはすべての男が望むものだから」だと。つまり「変装してスーパー・ウーマンになった私は、スーパー・ウーマンだから私は世界一美しい」と言う。

確かにロニーの観念の世界でならばそうなのかもしれないが、実際肉体の方は観念の力ではどうともならないこともあるのである。

ランスに拒否されたロニーは暴走して自宅にいる人間たちを皆殺しにしようとする。観念的に最上級になったはずなのに、この私にひざまづかないランスたちなど死んでしまえばいいとロニーは暴走する。

この暴走はものすごくインパクトがある。性的に抑圧された女性のような男性のようなロニーという人間が行き場を失ってしまうのである。否、性的に抑圧されていたというよりは、観念の世界が壊されたと言うべきか?ロニーには、自らの世界の拒否の後の行き場が残念ながらなかったのである。