上流階級という心地よさ

 映画「マッチ・ポイント(原題:Match Point)」を観た。

 この映画は、ウディ・アレン監督による2005年に発表されたイギリス映画であり、この映画の主人公は元プロ・テニス・プレーヤーのクリス・ウィルトンという青年である。

この映画の主人公クリスはプロ・テニス・プレーヤーとしての自分の実力に限界を感じていて、何か新しいことをしたいと漠然と思っている。そして元プロ・テニス・プレーヤーという経歴を生かして、高級テニス・クラブの教室のコーチになる。

その高級テニス・クラブ教室でクリスはヒューイット家というイギリス上流階級の家の息子トムと知り合い、その妹のクロエと恋に落ちる。そしてクリスとクロエは結婚し子供をもうける。

しかしクリスには公然にはできない秘密があった。それはトムの元恋人であるノラ・ロイスというアメリカ人女性との浮気である。

当初クリスはノラとの浮気に夢中になっているが、ある日ふと気づく。もしノラとの関係が明らかになれば、今の上流階級の暮らしがパーになってしまうと。そしてクリスは思いつめた結果、情婦であるノラをハンティング用の銃で撃ち殺すのであった。

映画の中でヒューイット一家は田舎に別荘を持っており、そこで休日にハンティングをしたり乗馬をしたりして過ごしている。

イギリスではスポーツにも階級が表れるという。上流階級はポロ、ハンティング、乗馬、セーリングを楽しみ、中流階級以上はテニス、ゴルフ、クリケットラグビーをたしなみ、労働者階級はサッカーに夢中になる。ヒューイット一家のたしなむスポーツは上流階級の証でもある。

クリスは上流階級か?否違う。クリスは上流階級ではない。それを物語るかのようなシーンが出てくる。それはハンティングをヒューイット家の家長がクリスに教えるシーンである。

クリスは全く猟銃の扱いができない。銃を撃っても飛んでいくクレー(まと)にクリスの打った弾はかすりもしない。クリスがまったく猟銃など扱ったことのない証拠である。上流社会の息子ならば、銃の扱いを父に習うというのがイギリス社会なのだろう。

クリスはこの映画の中で、自身の立場を守るべく2人の女性を殺す。1人は病気である老人女性。もう1人は父親に捨てられ自分を育てた母もアルコール中毒であるという女性、前述したノラである。

クリスは当初は上流階級の生活にあまりなじめない青年であるが、いつの時からか上流階級の生活にどっぷり浸かるようになる。クリスは言う。上流階級の生活に一度慣れるとそこから抜け出せなくなると。

クリスは保身のために浮気相手と、たまたまそこに居合わせた女性を殺す。上流階級に殺人をしてでも留まりたい。階級のためなら殺人をも犯すのである。