古き階級社会

映画「ファントム・スレッド(原題:Phantom Thread)」を観た。

この映画は2017年のアメリカ映画で、イギリスの上流階級のファッション・デザイナーとその妻となるイギリスの労働者階級の女性とのドラマ、ロマンスを描いた映画だ。

この映画の背景にはいくつかの要素があるが、その主たるものは、階級社会、ファッション業界、男女間の盛り上がりや下降する時というものだ。

まず階級社会という点だが、この映画で2人の階級差がわかるのは2人が出会う所と、朝食の場面からだ。妻となるアルマはホテルのウェイターをやっている。つまり労働者だ。それに対して夫となるレイノルズは、真っ白な屋敷に住まい雇った労働者たちに対して指示する支配者だ。またアルマは田舎の娘だが、レイノルズは都会の洗練された男性だ。

又、朝食の食べ方に関してだが、レイノルズはアルマの朝食のとり方について文句を言うシーンがある。「アルマ君はうるさい」と。要するにアルマは朝食を食べる際に、バリバリと大きな音を立てて食べる。それに対して上品なレイノルズは音を立てずに、腹にもたれないものを食べる。

ファッションに関してだが、レイノルズはウェディング・ドレスを作るデザイナーだが、16歳の時に母親のドレスを作ったのが服を作る最初だったという。この時にドレスの作り方をレイノルズに教えたのがレイノルズの姉のシリルだ。シリルはレイノルズにドレスの作り方を教えた。だからシリルはその呪いで結婚できなかったのだとレイノルズは言う(16歳の時にレイノルズが作った母のウェディング・ドレスは母の再婚のためのものだったのだろう。しかしなぜウェディング・ドレスを作ると呪いがかかるのか?)。結婚とウェディング・ドレスの呪いが、ファッションに関する点だ。

最後に男女間の関係についてだが、この映画の中では恋人から結婚への道筋が描かれている。この映画の中でアルマは男性につくす女性だ(映画の時代背景からこの時代には女性には妻としての生き方しかないようだが)。夫が仕事に出て、アルマを相手にしなくなる。しかしその内夫は疲れて床に臥せる。その時は2人とも互いに優しくなることができる。その後夫は回復し、妻が衰弱するのを待つ。この循環が描かれるのが、この映画の中の男女関係だ。

この映画では序章で階級社会やファッション業界の嫌な部分、華やかな部分が描かれる。そしてこの映画の終盤では、男女関係の在り方というようなものが比喩的に描かれる。

この映画の中で乗り越えられるのは、階級や結婚の壁だ。人は生きていれば何らかのものに出くわすことになる。そして、それを乗り越えてゆくのもその人間だ。この映画は暗にそれを示している。