世界を変える

 映画「アイ・ウェイ・ウェイは謝らない(原題:Ai Wei Wei Never Sorry)」を観た。

 タイトルにあるアイ・ウェイ・ウェイとは中国人の芸術家の名前である。アイ・ウェイ・ウェイの作品で世界的に知られているものは、北京オリンピックに使用された北京国家体育場の鳥の巣という作品である。北京オリンピックの開会や閉会に使われたあの会場である。

 これでアイ・ウェイ・ウェイについてはさわりはわかったと思うが、なぜ「謝らない」なのかはわからないと思われる。アイ・ウェイ・ウェイは何か悪いことをしていて、それについて謝罪がないのが問題なのではないかぐらいの予想はできるかもしれないが。

 アイ・ウェイ・ウェイは誰に対して”悪いこと”をしていて、そのことについて誰に対して謝らないのか?”誰”に当たる場所には何が入るのか?それは”中国政府”である。

 アイ・ウェイ・ウェイは表現の自由が許されない中国という国の支配者である中国政府が許せないのである(中華人民共和国という名ではあるが、決して国の支配者が人民であるのではない)。

 アイ・ウェイ・ウェイは手抜き工事で作られた建物の下敷きになって死んだ、何千もの四川大地震の犠牲者やその遺族に謝罪をしない中国政府が許せないのである。

 アイ・ウェイ・ウェイは手でファック・マーク(中指をおったてる)をして天安門を背景にして写真を撮影する。天安門とは現在の政府与党である共産党の創始者である毛沢東が、中華人民共和国の建国を宣言した場所である(現在政府は毛沢東文化大革命は、毛沢東が誤って発動した反革命的な行為であったと言っているが、現在の政府も共産党を名乗っており、現在の政府が依然として中華人民共和国であり、その宣言をした天安門は中国の象徴とも言える)。

 アイ・ウェイ・ウェイにはアイ・チンという父親がいる。アイ・チンもその子アイ・ウェイ・ウェイに似た理想主義者であった。アイ・チンは共産主義革命という思想を胸に抱き蒋介石の国民党に捕らえられ、獄中で詩を書いて出獄した頃には高名な詩人となっていた。

 蒋介石から毛沢東率いる共産党となりアイ・チンの共産主義革命の理想が果たされるように見えるが、アイ・チンは自ら支持していた共産党からものけものにされる。政治的に不遇の人生である。

 中国政府主導による”吊るし上げ”にもあっていたようである(吊し上げとは、反革命分子であるとして人を非難し、晒していじめあげることである)。

 父アイ・チンと中国政府の関係をまざまざと見せつけられて、幼いアイ・ウェイ・ウェイの心には政府に対する懐疑や怒りの感情が沸き起こったのかもしれない(本人は家族からの影響は否定しているが)。

 アイ・ウェイ・ウェイはツイッターをやっているのだが、そのツイートのうちにこんな言葉があった。「君が責任を負わなければ、世の中は変わらない」そう「任せてブーたれる」だけでは何も変わらないのだ。