結婚と愛と

 映画「アパートの鍵貸します(原題:The Apartment)」を観た。

 この映画の主人公は大手保険会社に勤めるC・C・バクスター(通称バディ・バッド)という男である。バディには公然にはできない秘密があった。それは自分の上司5人に自分のアパートの部屋を不倫の密会の場所として提供していることである。

 バディ上司たちはバディにこう言う。「お前の部屋を貸してくれれば、お前の出世は保障する」と。バクスター(バディ)は夜自分の部屋が使えないことを辛く感じながらも、結局上司の言う通りに、自分の部屋を上司の不倫のために提供している。その彼に悪びれる様子はない。バディは自分は上司たちに利用されているのだと言いたげである。

バクスター(バディ)は自分の勤めている会社のエレベーターガールに以前から好意を抱いていた。ある時そのエレベーターガール(フラン・キューブリック)が自分が部屋を提供している上司のうちの1人、部長のシェルドレイクと不倫の仲にあることを知ってしまう。

そのことにバクスターはショックを受ける。バクスターの好きな人が、上司の不倫相手でよりによって自分はその2人の不倫のために部屋を貸していたのだと。

会社のクリスマス・パーティーでフランは自分の不倫相手シェルドレイクが過去にも何人もの女性と不倫関係にあったことをシェルドレイクの秘書から告げられる。その秘書もかつてシェルドレイクの不倫相手だったのだ。フランはシェルドレイクの愛が不実なものである事実を知らされたのだ。

シェルドレイクは妻とは別れないし、自分をただの遊びだと思っている。そしてフランはシェルドレイクとアパートで逢引きした後、睡眠薬を飲んで自殺未遂をする。

フランを自殺から救うのはバクスターである。彼は自分の罪を滅ぼすかのように、そしてフランへの愛からフランの看病を一生懸命する。そしてバクスターはフランにこう告げる。僕も人の妻と恋仲になったことがあって自殺をしようとしたことがあると。

バクスターは許されない恋による失恋という痛手を負って女性不信になっているのだろう。だから上司に部屋を貸したし、恋人を作れないのである。一方フランはこう言う。「私はいつも成就しない恋をしてしまう運命なの」と。

フランに真実を伝えた秘書はシェルドレイクの妻に、シェルドレイクが今まで不倫をしていたことを伝える。そしてシェルドレイクは妻と離婚することになる。つまり、フランとシェルドレイクの間の障害である妻は存在しなくなった。しかしシェルドレイクはフランとバクスターのアパートの部屋で逢引きしようとする。

バクスターの奴が部屋を貸さないんだ」シェルドレイクはフランに愚痴る。それを知ったフランはこう言う。「物事は全て成り行きだわね」。フランは自分の背負っていた不幸な運命と決別する。全ては偶然でしかない。バクスターの鍵を貸さないという行動を知ったフランは、バクスターのアパートへ駆け出して行く(運命という呪術的なものからの開放!!)。そしてフランの自殺未遂からの回復時と同じように2人でカードゲームをするのである。

 

※不倫によって傷ついたバクスターは自ら不倫の手助けをしている。不倫が自分に対して苦痛をもたらしたのにそれを擁護するような態度である。自分に苦痛をもたらしたものを助長する。自虐的な態度である。自虐的な状況に陥りながらもバクスターが望むのは不倫の成就なのである。バクスターはこの時点でこう思っている。不倫は自分を苦しめた、それは不倫が成就しなかったせいである。不倫をしていてもいつか報われる日が来る。不倫の中にも真実の愛があるはずだ。不倫相手が配偶者と別れて不倫相手との関係が不倫でなくなる時が。不倫の成就(不倫が真実の愛である)それがバクスターに自虐的な行為を続けさせる理由である。