不法移民という不幸

映画「イゴールの約束(原題:La Promesse)」を観た。

この映画は1996年のベルギー・フランス・ルクセンブルグチュニジア合作映画で、映画のジャンルは、不法移民とそれに関わる人たちを描いたドラマ映画だ。

この映画の主人公は、移民を国の許可なしに、つまり不法に入国させて、移民を国に住まわせ、その移民から生活に関する費用をとって生活を成り立たせているロジェという男の子供であるイゴールという少年だ。

イゴールは車に興味を持っていて、友達と一緒に作ったゴーカートに乗って遊ぶのが大好きな少年だ。イゴールは笑うと細い歯が目立つ。歯はすでに生え変わっているはずなので、大人の歯がいびつに生えている印象を持つ。

イゴールが笑うと、素顔の清楚な美少年と言った感じから、不良な兄ちゃんと言った感じになる。イゴールの歯は甘いものの食べすぎか、それともシンナーのやりすぎかで細く削れてしまった印象を観るものは持ってしまう。

これは、監督の意地の悪いが素直な配役のためだろう。監督としては、イゴールの無表情の時と笑った時のギャップを狙っているのだろう。笑ったときは悪い子、無表情の時は良い子といった感じに。

ちなみにこの映画の中で、イゴールが甘いものを食べているシーンや、シンナーをやっているシーンは出てこない。イゴールの歯は生え変わってこのような状態になったのか、それとも生活環境の影響なのか不明だ。

ちなみに映画「ヒルビリー・エレジー」では、原作の本ではヒルビリーの貧しい人が、安く食べられる甘いものを子供時代に食べるせいで歯がボロボロになっているのを、映画では描いていなくて、観客のひんしゅくを買ったというエピソードを、町山智浩氏の町山智浩の映画その他ムダ話の、ヒルビリー・エレジーの解説で聴いた。その点では、もしかしたらイゴールの歯がボロボロなのはリアルなのかもしれない。しかし、イゴールの生い立ちが不明なのでなんとも実のところ言えないが。

映画のタイトルに「イゴールの約束」とある。イゴールは、2つの約束をすることになる。1つは、父ロジェとの約束。もう1つは、自分たちの生活の糧である不法移民のある家族の父親で妻子を持つアミドゥとの約束だ。

父ロジェとの約束は、家業をしっかり手伝えというものだ。父への裏切りと思われる行為は、許されない。アミドゥとの約束は、アミドゥの家族を守ってくれというものだ。なぜか? アミドゥは仕事の最中に足場から脱落して怪我を負い、その際にイゴールに家族を頼むとお願いをする。アミドゥは自分の怪我の重さと、不法移民なので病院には連れて行ってもらえないことをわかっていたからだろう。

イゴールは、その2つの約束のどちらをとるのか? それが、この映画のクライマックスにつながっていく。イゴールは映画の後半で、父の命令ではなくて、自分の信念に従って行動する。それは、このイゴールという少年が、大人になっていく成長の姿でもある。

アメリカやヨーロッパそして日本でも、移民の問題はここ最近(2021.10.30)でも話題になる。不法移民の話になると、アメリカのメキシコとの国境の壁が思い浮かぶ。中米の国のエルサルバドルやグアデラマの人々が、メキシコを越えてアメリカにやって来ていた。その壁は、前政権のトランプ政権の時に大きな問題となっていた。しかし、まだ移民の問題は解決はしていないようだ。

移民がアメリカにやって来る理由は、国による特定の民族への虐殺から逃れるためであったりする。誰もが安心して国の中で、暮らせる時代が来るのはまだ先のことなのか? 移民の問題に目を向けさせる映画の一つが、この「イゴールの約束」であることは言うまでもない。