ぎすぎすした信頼

映画「アートスクール・コンフィデンシャル(原題:Art School Confidential)」を観た。

この映画は2006年のアメリカ映画で、映画のジャンルはブラック・コメディだ。

この映画の監督のテリー・ツワイゴフは、アメリカのコミックと関係が深い監督だ。ツワイゴフの2作目の映画「Crumb」(1995)は、アメリカのアンダーグラウンド・コミック・ムーヴメントのパイオニアであるロバート・クラム(Robert Crumb)ついてのドキュメンタリー映画だ。この映画は、様々な賞で称賛を受けた。

ツワイゴフの3作目の映画「ゴースト・ワールド(原題:Ghost World)」(2001)はダニエル・クロウズの同名のコミックのコンテンツによってできているグラフィック・ノベルをベースにしたもので、この映画でツワイゴフとクロウズはアカデミー賞脚本賞にノミネートされている。

この映画「アートスクール・コンフィデンシャル」は、ツワイゴフにとって5作目になる映画で、映画「ゴースト・ワールド」同様にダニエル・クロウズの同名コミックを原作として作られたブラック・コメディの映画だ。

この映画「アートスクール・コンフィデンシャル」はタイトルの通り、美術学校の信頼関係を題材として取り上げた映画だ。もちろん映画には恋愛の要素や、芸術での成功を夢見る主人公の話としての要素もある。

この映画の主人公ジェローム・プラッツを取り巻く美術学校での人間関係は、信頼と呼べるものがない。ジェロームは、同じクラスの生徒の作品をけなしたことでクラスの生徒からは邪険に扱われる。

美術学校の人間関係は、ぎすぎすしたものだ。誰もが、自分の成功を願っている。成功者には、多数の敗者が群がる。成功者になるために、美術学校の生徒は自分の作品に対する先生や生徒の評価を過剰に気にする。そのため人間関係は、非常に悪い。誰もが、先生までもが自分の作品が認められること、つまり他の人を出し抜いて評価されることを願っている。それは主人公のジェロームでも、同じことだ。

そんなストラスモア美術学校で、殺人事件が起こっている。何者かがこの学校で、殺人を犯している。その殺人の犯人は、スラムの一角に住むある老人が犯人であることがすぐにわかる。

その老人は言う。「成功すれば絵画のバイヤーたちは俺の靴だって舐める。でも芸術家にとって重要なのは、10年に1度あるこの作品だというものを生み出した時の高揚感にある。その高揚感のために画家は、自分の執着する主題について描き続けるんだ」と。

この老人の画家はそう言いながら、人を殺してその死体を絵の題材にしている。それがその老人にとって執着できる主題だからだ。そしてその題材の犯罪性が、この映画の最後にジェロームを有名作家にする原因となる。

この映画の主人公ジェロームは誰もが望むように、芸術作品を完成させる喜びと、完成した芸術作品でビジネスで成功する願望を持っている。ジェロームはその夢を映画の最後に叶えることができる。そして自分の好きな人の愛を、手に入れる。

この映画で最初はジェロームは、女の子の気を引くために絵を描いている。最初はジェロームも女の子の気を引くため、つまりわかりやすく言えば女の子とセックスを目的として絵を描いている。

しかし次第にジェロームは、絵そのものに囚われるようになる。絵を描き上げた時の達成感のようなものに、ジェロームは心を奪われる。フロイトの言葉を借りて言うならば、ジェロームは性欲を芸術に昇華させたのだ。

成功には、人々の間に自分の存在が浸透するきっかけが必要だ。それがこの映画では、死者を殺して描いた絵画という形で描かれる。その犯罪的なスキャンダル性が、人々の注目を奪ったのだ。ジェロームは、老人の絵画を利用して成功をつかみ取る。刑務所の中で。

映画の中で生徒が芸術作品は、家父長制が生み出したものだと発言する。それはきっと、絵画や彫刻の裸婦の作品を念頭に置いたものだろう。ヌード作品は、芸術の購入者にとってはポルノと何ら変わりはない。そしてそのポルノを買うのは、男性の購買者だとここでは考えられる。

芸術家が囚われる芸術の完成と、芸術によるビジネス的成功。芸術とお金の関係。芸術がお金から自律したものであるとメディアがあおるたびに、ビジネスに奔走する芸術家の姿は滑稽に描かれることになる。芸術と仕事が結びついていた過去の時代、芸術が工房でライン生産のように係分けして作られていた事実を人はもっと知るべきだ。