恐怖すらも商売にする

映画「ビートルジュース(原題:Beetlejuice)」を観た。

この映画は1988年のアメリカ映画で、映画のジャンルはホラー・コメディだ。

この映画のタイトルのビートルジュースとは、ペテルギウス(英語:Betelgeuse)がもとになっている言葉だ。ちなみに、ペテルギウスとはオリオン座にある恒星ことだ。この映画の中でペテルギウスとは、映画の中の死人のためのケアワーカーの補佐をしていてクビ同然の扱いを受けている中年男性の死人のことだ。

この映画は死後の世界を扱う映画で、映画の中でうまく死ぬことができなかった人は、ケアワーカーに面倒をみてもらうことになるというのがこの映画の設定だ。死後の世界は、生きている世界と同じで楽じゃないということにこの映画ではなっている。

この映画の中心は、死んでケアワーカーに面倒を看てもらうことなるメートランド夫妻と、メートランド夫妻が死んでそこに越してきたディーツ一家だ。そしてディーツ一家の娘のリディアが、この映画のキーパーソンとなる。

メートランド夫婦は、田舎の山の上の大きな家に暮らしていた、昔ながらの夫婦だ。夫は仕事をして、趣味に打ち込み、妻は、家事をこなす。しかし、古風な夫婦につきものの子供がメートランド夫婦にはいない。

古風な夫婦の2人のことだ、子供をつくることに鈍感なはずはない。古風な夫婦が結婚して子供を持たないのは理由は、そう多くはないような気がする。きっと彼らは子供を授かることができない夫婦なのだ。

それに対して、ディーツ一家は都会の今どきの家族といった感じだ。夫はお金を稼ぐのに必死で、子供のリディアはほったらかし。妻も自分の夢である高名な芸術家になるために、子供のリディアに対しては無関心だ。

ここで思いつくのは、古風な夫婦と今どきの夫婦が入れ替わればいいのではないかということだ。劇中でディーツ家の家長は言う。「ここに癒されに来たんだ」と。都会の暗い背景から逃れて、田舎の光のあふれる世界にディーツ家はやってきたのだ。

ディーツ家は、自分たちが引っ越してきた家に、メートランド夫婦の幽霊という古風なものがいると喜ぶ。その幽霊を利用して、夫の方は金儲けを、妻の方は自分の名声を高めようとする。田舎の古風な家にいる幽霊を利用することを、2人は考える。

それに対して、いつも両親から愛されなくて死にたいと考えているリディアは否定的だ。リディアはメートランド夫婦に、理想的な父母像をみているからだ。リディアは、メートランド夫婦を利用しようとはしない。

しかし、ディーツ夫婦が正気にならないと、リディアは救われない。そこで登場するのが、ベテルギウス=ビートルジュースだ。ビートルジュースはいわゆる、女性に対してセックスと家事労働の両方を求めるいやらしい男性だ。まさに家父長制。まさにヴィクトリアン。

そのビートルジュースの力を利用して、ディーツ夫婦を正気に戻し、その後にビートルジュースの性欲となまけ癖を排除してしまうのが、この映画のラストだ。

この映画には砂の惑星が出てくる。それが恒星ベテルギウスと、星であるという点で関係しているように思われる。ペテルギウスは人物でもあり、死者にとっての地獄の砂の惑星でもある。ビートルジュースとは乾いて癒されることのない、行き場のない男性の捏造された性欲を現わしているのかもしれない。