映画「迷子の警察音楽隊(原題読み:Bikur Ha-Tizmoret,英題:The Band’s Visit)」を観た。
この映画は2007年のイスラエル・フランス・アメリカ合作映画で、映画のジャンルはコメディだ。
この映画の主人公はエジプトのアレキサンドリア警察の音楽隊の指揮者で、バンドのリーダーであるトゥフィーク・ザカリーアだ。時代は1996年だ。
バンドはエジプトのバンドで、エジプトのバンドがイスラエルに入る。これは一体どういうことか?
中東と言って思い出すのは戦争だ。中東では第2次大戦が終わって3年たった1948年から大きな戦争が起こっている。中東ではアメリカを背景とするグループと、それに対抗する現地民たちのグループが今日でも戦いを続けている。
特にこのことで注目したいのは、エジプトとイスラエルの関係だ。パレスチナの地にユダヤ人がイスラエルを建国した時から、アメリカを背景とするイスラエルと、その周辺のアラブ諸国との関係は悪化しており、1948年に第一次中東戦争が発生している。
イスラエルと対立した周辺アラブ諸国は、エジプト・サウジアラビア・イラク・トランスヨルダン・シリア・レバノンだ。つまりここからこの映画についてわかるのは、イスラエルとエジプトは戦争をした間柄ということだ。
中東戦争は第四次まで続いている。その終わりは1980年の頃だ。その後も戦火はくすぶり続けているわけだが。
この映画の舞台1996年のイスラエルは、文化のない国として描かれている。イスラエルは建国して間もなく、しかもアラブ諸国に国土を破壊されている。文化の名残りなどどこにも見つけられない。
それに対してエジプトは伝統の国として描かれる。文化の豊かな国がエジプトということだ。
イスラエルの若者たちは西欧の音楽でダンスする。エジプトの楽団は伝統音楽を演奏する。イスラエルではビートルズやローリング・ストーンズが聴かれている。イスラエルの人にとってエジプトの伝統音楽は古臭いものでしかない。
この両者の対立を埋めるものは何か?それはリビドーだ。もっと簡単に言えば恋愛と呼べるかもしれない。自己を肯定する者は、他者を愛することができるというのが、この映画の中にある恋愛のテーゼだ。
この映画の主人公のトゥフィークは旅先のイスラエルでディナという女性と出会うが、2人は結ばれない。なぜならトゥフィークは息子と妻を失い、自分を愛することができなくなっているからだ。
この映画は2016年から2018年にアメリカでミュージカルとして上演されて、2018年にはトニー(Tony)賞を受賞している。イスラエルとアラブ諸国の愛の物語はいかに?