ただ生活のために

映画「バリー・シール/アメリカをはめた男(原題:American Made)」を観た。

この映画は2017年のアメリカ映画で、実録ドラマ映画だ。

この映画の主人公は、バリー・シールというパイロットの男だ。バリーは最初は民間のIWAパイロットだったが、1978年頃にCIAにリクルートされて、CIAの作った独立航空コンサルタント会社(略称IAC)で働くことになる。

バリーはCIAの指揮の下で、盗撮を行っていた。盗撮というのは、当時アメリカはソ連と冷戦状態で、共産圏の情報が欲しかった。そこでバリーという腕利きのパイロットを雇って、飛行機を低空飛行させて、アメリカの対立国となる共産圏の国の航空写真を撮っていたのだ。

そのバリーの働きに目を付けた集団がいる。それはメデジン・カルテルのボスたちだ。カルテルのボスたちはバリーを麻薬の運び屋にしようとする。南米にあるコカインをアメリカに密輸入させるためだ。

CIAはケチだった。バリーに家族を余裕を持って養わせる分の給料を与えていなかった。バリーは金銭的な理由でメデジン・カルテルの運び屋の仕事をするようになる。

バリーは南米の共産圏の国の航空写真を盗撮して、南米からアメリカへの帰りにメデジン・カルテルのコカインを持って飛ぶ。もちろん麻薬の密輸は犯罪だ。

バリーとメデジン・カルテルは摘発される。バリーはアメリカ政府に捕まるが、そこでCIAがバリーに対してこんな交換条件を出す。

「お前を無罪にしてやる。その代わり、イスラエルから奪ってきたソ連産の武器をニカラグアの反政府組織コントラに密輸しろ。お前が麻薬で手にした金は好きにしろ」と。

当時ニカラグアには共産主義の政権であるサンディニスタが誕生していて、アメリカはサンディニスタが気にいらなかった。そこでアメリカは反サンディニスタのコントラを支援することにしたのだ。

ところでなぜ邦題のタイトルが「バリー・シール/アメリカをはめた男」なのかという理由は以下だと思われる。それはバリーはアメリカがコントラに流していた武器を実際にはコロンビアに密輸していた。

コントラの武器になるはずのものが、コントラの手に渡っていなかった。バリーはアメリカ政府を騙したのだ。ここで疑問が生じる。おかしい。コントラは反サンディニスタで武器が欲しいはずじゃないのか?

だが武器をコントラに送らなくても問題はなかった。コントラが欲しかったのは武器ではない。コントラが欲しかったものはお金だ。

コントラは武器を受け取る代わりに、南米のカルテルの麻薬を受け取り、それをアメリカに売っていた。コントラアメリカのためではなく(アメリカのためならコカインを密輸するはずはない)自らの経済のために動いていた。

映画中、アーカンソー州のミーナにコントラの兵士たちが訓練のためにやってくるシーンがある。アメリカに着くと一部のコントラの兵士はアメリカに逃げ込む。コントラの兵士もただ生活したかっただけなのだ。