ゾンビ映画を通じた家族物語

映画「カメラを止めるな!」を観た。

この映画は2017年の日本映画で、映画の前半はゾンビ映画を撮影中に本当にゾンビが出現してしまったというゾンビ映画が描かれる。映画の後半では、そのゾンビ映画ができるまでとその映画の撮影の舞台裏が描かれている。

前半はホラータッチだが、映画の後半はコメディだ。

この映画のあらすじを大ざっぱに言うとこうだ。映画監督の日暮隆之はテレビ局から無茶な企画を依頼される。その依頼とは、生中継でワンカットのゾンビ物の映画をテレビ向けに撮れというものだった。

最初は乗り気ではなかった隆之だが、映像の分野に進むことを志している娘の真央が好きな男性俳優が出演するということを知った隆之は、映画の製作を決意する。

そのテレビ映画のタイトルは「ONE CUT OF THE DEAD」だ。映画の俳優には個性的なメンバーがそろっている。アルコール中毒の中年俳優や、子持ちで不倫をしている女優。自分のわがままを事務所が嫌がると言って通す主演女優。考えすぎで映画の製作をさまたげようとする主演の男性俳優。

彼らは様々なアクシデントを乗り越えて1本の映画を仕上げる。

映画では俳優陣が個性的で、悪く言うとわがままな設定になっているのに対して、映画の影の主人公のカメラマンやメイクの人たちは非常に映画に、台本に、番組に忠実な態度をとる。

この映画を観ている人には、この映画の影のスタッフたちは、非常に賢く、強く、信念に基づいて生きている人たちに見える。

この映画のスタッフたちを象徴するのが、映画監督の日暮隆之と、その娘真央と、妻晴美だ。彼ら彼女らの家族ドラマを描くことにより、影のスタッフたちの内面や日常を描き出すことにこの映画は成功している。

映画監督の隆之の家族に感情移入すればするほどこの映画が楽しくなるだけでなく、この映画の背景に隠されているものが明らかになる。つまりこの映画で隠し味になっているのは日暮一家の家族物語だ。

家族物語がその他のスタッフの家族物語があることを連想させる。メイクの家族、カメラマンの家族を連想するといったように。

映画で日暮監督は、映画というフィクションを使って、真実を告げる。「嘘をつくのはよくない」「作品を作り上げることが大切だ。作品の解釈は作品を観る側のものだ」と。

映画の前半で作品の完成したものを見せて、後半ではその完成に、より深みを持たせるドラマを描く。この映画は映画を観る者それぞれに、映画の観かたを教えてくれる。