生きる動機付けを欠かない人

映画「メメント(原題:Memento)」を観た。

この映画は2000年のアメリカ映画で、スリラー・サスペンス映画であると言えるのかもしれない。この映画の主人公はレナードという元保険調査員の男だ。レナードには妻がいた。しかし妻は生きておらず、レナードが仕事も持たずに動き回っていることが、この映画が進むうちにわかってくる。

レナードの妻は何者かに殺されたということがわかってくるのだが、それは誰がやったのか?ということは映画の謎だ。この映画の結果を言ってしまうとこうなる。

レナードは短期記憶障害であることを自ら利用して、自らの人生の動機づけを短期記憶障害のために得ることになる。レナードはこの障害を利用して自らが生きる意味を意図的に操作し、その操作の存在すら忘れてしまうのだ。

この動機づけによりレナードの人生は妻の死への復讐という形をとり、レナードの死まで続くマッチポンンプによって突き進み続けることになる。

この映画ではレナードの妻はレイプされて殺されたとか、レナードの妻は糖尿病のインスリン注射を短期記憶障害のレナードにされて死んだとか、レナードは保険調査員時代にサミーという男の件について担当して、サミーという男に自分の人生を結び付けたとかいうような内容が描かれている。

これらの内容が映画の中の事実かどうかということは、この映画にとっては大して重要ではないように思われる。この映画の中ではレナードの妻ついてこうして彼女は死にましたと特定される唯一の事実は登場しない。意図的にこの映画はそれを避けているように思われる。

この映画の中で重要なことは、レナードの動機づけの原因にあるのではなくて、レナードの動機づけがレナードの命がある限り続くということに重点が置かれている。

人間というものはその人間がどのような人生を生きてきたかということと、その人間がこれから何をするかによって規定されるのかもしれない。このうち前者の方に重点を置いて考えるのならば、人生とはその人の経験であるということができそうだ。

過去=その人の人生であり、過去=人間という図式が成り立つ。この映画の主人公の過去はこの映画では曖昧に描かれる。この映画では主人公の過去など関係ないと言っては言い過ぎかもしれないが、この映画では主人公の過去の実在性などは二の次なのだ。

この映画で重要なのはレナードが止まらないことだ。数分間という短いこま切れの人生の中でレナードは新たな事実をすべて忘れ去り、自らの命が尽きるまで永遠に動機づけを欠かない人間として生き続けるのだ。