秘められた同性愛

映画「君の名前で僕を呼んで(原題:Call Me By Your Name)」を観た。

この映画は2017年のイタリア・フランス・ブラジル・アメリカ合作映画で、エリオという少年と、オリヴァ―という青年の恋愛を描いた、恋愛青春映画だ。

この映画の舞台はイタリアのどこかだ。そのどこかとは都市ではなく、夏を過ごすため、バカンスを過ごすための休養地だ。

エリオの父は大学の教授らしくそのもとへオリヴァ―がやって来るところから映画は始まる。エリオの元には毎年どうやら勉強のために人が来ている様子だ。

この映画は一言で言うならば、男性同士の誠実な恋愛映画だ。エリオとオリヴァーはなかなか接近しないし、濃厚なラヴシーンあるということもない。ただエリオを中心として見た世界がぼんやりと描かれているだけだ。

オリヴァーはエリオを同性愛の世界に誘おうかどうしようか迷っている。この映画では同性愛の置かれる状況というのは詳しく述べられないが、オリヴァーがエリオに対してオープンに「好きだ!!」と言わない所からも、同性愛が秘められた当事者たちだけの秘め事であることが伝わってくる。

またエリオの父がエリオにこう語りかけるシーンもある。「通常親というものは、息子が同性愛に向かうことを避けるものだ。私も同性愛を感じたが、その気持ちはおしとどめた。しかし、エリオ。お前は自分の気持ちに従いなさい」と。

異性愛同士の恋愛を隠す必要はないし、異性愛者の親が「お前にその道はすすめない」とは言わない。同性愛者の置かれた立場の狭さのようなものがここから良く感じられる。

この映画の時代設定は1980年代だ。1980年代には、公式に同性愛が認められるものではなかったのだろう。この時代の持つ息苦しさのようなものが、ラストのシーンのエリオの涙からくみとることができる。

この映画では古代ギリシアの彫像が取り上げられる。エリオの父とオリヴァーは、この古代のギリシアの彫像についてどうやら研究しているらしい。2人は彫像のフィルムを映し出しながらこう口にする。「なんて官能的な像だ」「素晴らしい」と。

古代ギリシアの彫像には官能的な欲求つまり、性欲の喜びを満たすために作られたという歴史的経緯があるようだ。古代ギリシアでは、同性愛は公然として認められていた。しかし歴史が現在に近づくにつれて、同性愛はタブー視されるようになった。そしていまやっとそのタブーが開かれかけているのだ。