市場社会に適応した人間

映画「ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密(原題:The Founder)」を観た。

この映画は2016年のアメリカ映画で、マクドナルドという店のシステムと名前をマクドナルド兄弟から奪ったレイ・クロックという人物を描いた伝記映画である。

レイ・クロックはミルク・シェイク・マシーンを売っていた。マシーンは思うようには売れていなかった。そんな中カリフォルニアから6台のミルク・シェイク・マシーンを買いたいという電話があった。その電話をしたのがマクドナルド兄弟だった。

この映画では純粋で真面目の象徴としてマクドナルド兄弟が描かれる。それに対してレイ・クロックは野心的で挑戦的な男として描かれる。マクドナルド兄弟はビジネスの世界にうとくて、レイ・クロックはビジネスの世界の化身のように。

マクドナルド兄弟は純粋で堅実なのだろうか?否、それは違う。マクドナルド兄弟も野心を持った企業家なのである。それはマクドナルド兄弟が兄弟の店にレイ・クロックを招き入れるシーンではっきりとわかる。

レイ・クロックが店に来たと言うと、マクドナルド兄弟は慣れた様子で店の説明をする。そしてその説明は実に慣れたものなのである。つまりこういうことだ。

マクドナルド兄弟は自分たちの店を自分たちの都合の良いように拡大してくれるビジネスマンを探していたのだ。つまりマクドナルド兄弟が純粋で堅実な人たちだという先入観はここで打ち砕かれるのである。

レイは映画の中で供給により需要は生まれるという。どんどん生産すれば、人々の需要はそれに従って増えてくると言うのだ。供給が需要を生む。つまりセイの法則が成り立つのである。つまり市場は商品の売り手のもので、買い手のものではないとレイ・クロックは言っているのだ。

レイ・クロックはセイの法則の支持者であり、“ポジティブの力”という考えかたの信者でもある。

マクドナルド兄弟は一見誠実に見える。しかし、商売をしている以上作ったものが売れないとマクドナルド兄弟は困る。つまりマクドナルド兄弟もレイ・クロックと同じセイの法則の支持者なのである。

作った分だけ売れる。それ以上生産者にとって好ましいものはない。レイ・クロックはマクドナルド兄弟が作り出したカリフォルニア州サンバーナーディーノのマクドナルド1号店を差し置いて、レイがマクドナルド兄弟の許可を得てデスプレーンズに出した店が1号店であると言い出す。

レイは自らが創業者でなければ立場が無いのである。しかし実際にはマクドナルドの創業者はマクドナルド兄弟であるのだが。

人はなぜ市場の中では狼になるのだろうか?人間の欲というのは何とも、どれほどのものとも測りがたいのである。