不条理な環境

映画「ムーンライト(原題:Moonlight)」を観た。

この映画は2016年のアメリカ映画で黒人の貧困層の家族の少年の成長と恋を描いたドラマ映画である。

この映画の主人公はシャロンという黒人の少年である。

この映画はシャロンの3つの時期について描かれている。3つの時期とは、小学生の時、高校生の時、そして成人した後の時期である。

それぞれの時期の冒頭にはその章のタイトルがある。順に1.リトル、2.シャロン、3.ブラックである。

まず1のリトルについてだが、リトルとはシャロンのあだ名である。“なよなよして弱いやつ”といった意味だろう。

次に2のシャロンだが、これはシャロンの実名をタイトルにしたものである。この章でシャロンは自分がゲイであることを自覚する。それは小学生の頃からの友達ケヴィンの手により射精するエピソードで意図的にわかりやすく描いてある。

1のリトルの頃のシャロンは自らのセクシャリティを確信いていなかったが、2のシャロンの時には自身のセクシャリティを確信するのである。

そして3のブラックである。このブラックというのもシャロンのあだ名である。しかし、このブラックというあだ名をシャロンに付けたのは、シャロンが愛するケヴィンである。シャロン愛する人に付けてもらった名前がブラックであり、ブラックという名は恋する人であるケヴィンがシャロンを呼ぶ時の名である。つまりブラックとはゲイとして愛される時の名である。

シャロンは黒人であり、ゲイであり、貧困家庭で、母子家庭で、学歴は低く、母親は麻薬中毒である。シャロンは何重もある苦難の中で生き抜いていく。

成人したときシャロンはヤクの売人になっている。自らの母の人生を台無しなしにした麻薬の売人によりによってシャロンはなっているのである。

しかし、シャロンの生まれたリバティー・シティでは刑務所に入るのは当たり前というような環境である。リッチに生きるには売人しかほとんど残された道はないのである。

シャロンには父がいなかったが、フアンというヤクの売人のボスがシャロンの面倒を見ている。しかし、フアンの部下からシャロンの母は麻薬を買っている。そしてシャロンは代理の父であったフアンの後を追うように売人になるのである。

金持ちの子供は金持ちに、貧しい子供は成人しても貧しいまま。それがこの世界の在り方なのだろうか?そうだとしたら、シャロンたちの姿を見た私たちはその在り方にうんざりして、手をこまねいているだけで良いのだろうか?変わるのは今、私、あなたがである。