性と暴力

映画「郵便配達は二度ベルを鳴らす(原題:The Postman Always Rings Twice)」を観た。

この映画の元となっているのは1934年に出版されたジェームス・M・ケインの同名小説で、この小説を元として同じタイトルの映画が、この1981年制作の作品以外にも他に3つ(1939年、1942年、1946年)ある。

この映画はアメリカ映画で、フランクとコーラという2人の男女の愛憎劇を描いたクライム・サスペンス・ドラマといったものである。

ガソリンスタンドとレストランを経営するニック・パパダキスとコーラ・パパダキスの元に通りすがりのフランクという男がやって来る。フランクはニックがいない時にコーラを強引に迫りコーラと関係を持つ。

コーラはそのうちにニックを殺してフランクと共に生活するという道を選ぶ。ニックを事故に見せかけて殺したフランクとコーラは愛し合いつつ、憎しみながら映画のラストのコーラの事故死による2人の訣別まで過ごすのだった。

この映画で印象的なのはセックスと暴力の描写とその関係である。この映画では何度もセックスシーンが描かれる。そしてそのセックスシーンは暴力的な状況から引き起こされるのである。

この映画では暴力とセックスが類似するものとして描かれている。“穏やかに見つめ合う2人が、次第にセックスへと流れ込む”という描写はこの映画の中ではあまり見られない。

ほとんどのセックスは相手を無理に抑え込んでセックスしようとする男フランクに抵抗する女コーラという前提から生じる。つまり男の方が強引に女を抑え込んでセックスするのである。暴力的なセックスがここに見られる。

フランクとコーラはエロスとタナトスにより動かされているような人たちである。性欲と破壊的欲求(つまり暴力)に支配されているのがフランクとコーラなのである。

コーラの夫ニック・パパダキスは決して人間的魅力に満ちた優しさの溢れる男ではなかったかもしれないが、この映画ではニックはあまりにも哀れである。

ニックはギリシャからの移民でこうぼやく。「この国にはチャンスはあるが、心がない」「皆外国人を馬鹿にする」と。

アメリカは移民の国である。コロンブスによるアメリカ大陸発見に端を発して、ヨーロッパの国々からアメリカ大陸へ、人々の入植が始まる。15世紀からアメリカ大陸への入植が行われ、黒人奴隷の貿易も17世紀ころから既に始まっていた。

アメリカはネイティヴ・アメリカンを殺して土地を奪うことにより生まれた国である。移民が移民を馬鹿にするのがアメリカなのである。少なくともこの映画では。移民として差別したり、ネイティヴ・アメリカンを殺すのはアメリカのご都合主義なのだろう。