権力に都合の良い口実

映画「キャッチ22(原題:Catch-22)」を観た。

この映画は1970年のアメリカ映画で、第二次世界大戦と思われる時代背景を持ち、爆弾を落とす戦闘機のアメリカ軍のパイロットの精神状態を描いた作品である。

映画中“キャッチ22”という用語の説明がされる。そこで示されるキャッチ22の意味とはこうだ。ある戦闘機(爆撃機)のパイロットがいる。パイロットは自分が精神を病んでいてもう爆撃機には乗りたくないと言っている。そして軍に、自分はもう精神的に病んでいて気が狂っているから爆撃機には乗れないと訴える。すると軍からはこういう返事が来る。「飛行の免除を願うことは精神的に病んでいないことの証拠だ。だから出撃免除にはできない」と。

つまりこの場合軍は、爆撃にすすんで出る者は異常者で、爆撃に出ない選択をする者こそ正常だというのである。つまり軍が自ら軍の命令を快諾する者は病的であるとすんなり認めるのである。

しかし軍は自国の国民に国を守るために戦うことを推奨する。軍にとって国のために戦ってくれる兵士は重要な必需品(人ではない)である。人を品と思っているとは言い過ぎかもしれない。

仮に軍は人を物だとせず、人を権利を持つ存在だと認めているとしよう。軍はそこで国民を勧誘する際に「軍の兵士は異常です」とは言わないだろう。「軍人は精神的異常者の集まりですよ」と言ったところで誰も軍には加わろうと思わないだろう。

しかし、いざ軍人となってしまうと話は別なのである。「君たちは異常者だ」と軍は平気で国民(軍人となった)に言う。一旦国民を取り込んで軍人にしてしまえば後は軍法会議を脅しに使って執拗に軍人たちを戦地に仕向けるのである。

特に過去の戦争ではそのような体制が整っていたのだろう。否、現在でも戦闘兵に対してはそのような態度がとられているのかもしれない。

普通の人間なら、一度戦場に出ただけでその恐怖に打ちのめされてしまう。しかし彼らは軍を出ようとしない。それはキャッチ22のような仕組みを使って軍が兵士たちを縛っているからであろう。

例えば、その縛りの例としてアメリカ兵たちの兵士になる理由がある。貧しいアメリカ人は大学へ行きたい。大学を出た方がより好条件の職場に就けるからだ。大学へ行く金を稼ぐには軍人になるのが手っ取り早い。

よって貧しいアメリカ人の若者は軍隊に入隊して学費を稼ごうとする。すると、軍は“キャッチ22”のような口実、この場合“貧困から抜け出したければ命を危険にさらして国に奉仕せよ”を使う。「キャッチ22」も「大学へ行くための従軍」も軍隊に都合の良い口実にしかすぎないのである。