今、その相手を愛している証拠

映画「さざなみ(原題:45 Years)」を観た。

この映画は2015年のイギリス映画で、結婚して45年間連れ添ってきた熟年夫婦の老人2人を描いた映画であり、男女の結婚観のすれ違いを描いた映画である。

ケイト・マーサーとジェフ・マーサーの夫婦は、もうすぐ結婚45周年のパーティーを迎えようとしている。そこにこんなニュースが2人の間に割り込む。ジェフの昔の恋人カチャがスイスの高い山の氷河の中から見つかったとつづる手紙がそれである。

この手紙をきっかけに夫婦の間に違和感のようなものが生じる。ジェフは昔の恋人カチャとの思い出について、ケイトに話す。すると話が回数を重ねるごとにケイトはカチャがそして夫ジェフが気に入らなくなる。夫は昔の恋人について熱心になるが、妻はそれが受け入れられないのである。

ある時ケイトとジェフは街へ出かける。そこでリーナという女性とその家族に彼女たちは会う。リーナはケイトに言う。「私と夫は結婚記念パーティーの時に離婚の危機を迎えたわ。でも夫が結婚パーティーで泣いたから許してあげたの。男って女は今を生きているけど、男の方は過去の遺産にすがりつくものよね。今が大切ってことを教えてあげなきゃ」と。ケイトは「ジェフは泣かないと思うわ」と言い返すだけである。

男は過去の恋愛の相手について語る時、その女性に対する愛情があると知らず知らずに話しているようである。もう終わった話ならいいが、何度も執拗に話されている女はたまったものではない。

その恋人への思いは自分への嫌がらせなのか?今に満足していないから過去の恋人のことを語るのではないか?女はどんどん疑心暗鬼になってくる。ここに男と女の結婚観の違いがある。

男にとって結婚とは無償の愛のものである。つまり一度結婚してしまえば、愛は当たり前に与えられるものと思っている。しかし女にとって結婚とは何か?それはきっと日々の愛の積み重ねである。

女にとって愛の供給元とは相手の愛情を常に感じられることである。つまりそれは永遠に続く無償の愛とは違う、愛されているという証拠の積み重ねのようなものなのである。

映画はジェフとケイトの45周年パーティーのダンスのシーンで幕を閉じる。そこで流れるのはムーディー・ブルースというバンドの“ゴー・ナウ”という曲である。その曲の歌詞はこうである。

「僕はさよならって言ったから、君は今すぐ(どこかへ)行きなよ」。訣別の曲である。45周年パーティーでジェフはリーナの言ったリーナの夫のようにスピーチの最中に泣き出してケイトに愛していると許しを請う。しかし、映画の最後の曲は“ゴー・ナウ”である。2人の気持ちはすれ違うのである。