反復する破壊的欲動

映画「イット・フォローズ(原題:It Follows)」を観た。

この映画は2014年に製作されたアメリカ映画で、映画の内容はホラーである。この映画の主人公はジェイという19歳の女子大生である。ジェイは交際していたヒュー(本名:ジェフ・レドモンド)とセックスする。

セックスの後ヒューはジェイを気絶させ拘束し、ジェイに“自分をつけて来るもの”を見せる。そしてヒューは言う。

「今のセックスで僕は君にあるものをうつした。それは感染者以外には見えない。そしてそれは変幻自在で君の命を奪いに来る。君はゆっくり確実に追いかけてくるそれから逃げるんだ。もし君が死ねば以前感染していた者(この場合はヒュー)の命を奪おうとそれはしてくる」と。

ジェイは友達のポール、ヤラと姉妹の女の子と近所のグレッグと共に、ジェイをつけて来る“It(それ)”から逃げ続ける。ジェイの仲間の中で特にジェイを思いやっているのは、ジェイのファースト・キスの相手のポールである。

ポールはヤラにドストエフスキーの「白痴」の主人公みたいと言われるような文系内向系(?)青年である。ポールは好きなジェイの見ている世界と同じ世界が見たいのかもしれない。なぜならポールはジェイが好きだから。

ポールは映画の最後にジェイとセックスする。ポールはきっとそれでジェイと同じ世界を共有することになるのを期待している。

ところで映画の中に登場する変幻自在の“It”とは何なのだろうか?その“It”が何なのかを映画はあまり説明しない。“It”は何のために現れて、何を目的にしているのか?

人間には欲動というものがある。例えば性欲、食欲、睡眠欲。欲動は一時的に解消されてもまた沸き起こる。つまり欲動は反復する。欲動の一種に破壊的欲動(死の欲動)も存在する。当然それも欲動の一種なので反復する。一旦おさまっても欲動はまた生じるのである。

この映画の中の“It”とはセックスしたいと思う性的欲動と同じ欲動である死の欲動のことでないだろうか?死の欲動が治まっても、また再発するように“It”からいくら逃げても“It”は姿を変えて繰り返しジェイの元に現れる。死の欲動と“It”とは同じものではないだろうか?

“It”は変幻自在であるのだが、その姿は女性であったり、子供であったり、ジェイの父と似ていたり様々である。

映画中グレッグは自分の母と同じ姿をした“It”とセックスをして死ぬが、そのことが“It”の変幻自在さを知るためのヒントになるのかもしれない。性欲動に反するもの、つまり破壊的欲動が“It”なのであるから、禁欲すべき相手から破壊的な攻撃を受けるのはおかしなことではないのではないだろうか?

つまり禁欲すべき相手とセックスするのは、本人にとって破壊的な意味を持つ。“It”は死の欲動つまり破壊の欲動であるから、本人を破壊する近親者とのセックスは“It”の目的とするところなのである。