世界の終わりに対する執着

映画「博士の異常な愛情または私は如何にして心配することを止めて水爆を愛するようになったか(原題:Dr.Strangelove or :How I Leaned to Stop Worrying and Love the Bomb)」を観た。

この映画は1963年に制作され、1964年に公開されたアメリカ・イギリス合作の映画である。この映画の背景には冷たい戦争と言われた米ソ冷戦がある。

第二次世界大戦後世界は西側(アメリカ、イギリス等)と東側(ソ連等の共産主義国)との冷たい対立が続いていた。この映画は西側と東側の国家間の核兵器によるにらみ合いという、当時の現実をブラック・ユーモアたっぷりに描いた映画である。

この映画は世界が核戦争に陥るまでを描いており、映画中世界を恐怖に陥れるのはアメリカ側の2人の男である。1人はアメリカ空軍のジャック・リッパー将軍であり、もう1人はアメリカ政府お抱えの科学者ストレンジラブ博士である。

リッパー将軍は、アメリカ空軍の基地の中でクーデターを起こし、アメリカのソ連へ向けた核爆撃戦闘機を発進させる。ストレンジラブ博士は、核よりも強い抑止力である「皆殺し装置」を発案した科学者である。ストレンジラブ博士の「皆殺し装置」とは巨大な水爆のことである。

リッパー将軍はストレンジラブ博士が作ったコンピュータにより完全にオートマティックに作動する「皆殺し装置」を実行に移させるきっかけを作るのである。

ストレンジラブ博士は映画中にこの装置を抑止力のために作ったと公言するが、映画のラストに水爆が使われることになると、世界の破滅に嬉々としている。ストレンジラブ博士は「皆殺し装置」が作動することを望んでいたのである。

「皆殺し装置」が作動してしまったらどうするのだと尋ねるアメリカ大統領に対して、ストレンジラブ博士はこう言う。「人類のうち10万人ぐらいなら炭鉱などの地下1000メートルに住むことができる。人口は足りないかもしれないが、1人の男に20人の妻を与えて子供を増やせば問題ないよ。だから選ばれる女性は性欲をそそる美人がいいですよ」と。

ストレンジラブ博士は実際に水爆が爆発した後のシナリオまで考えていたのである。ストレンジラブ博士には世界崩壊後のシナリオがあった。つまりそのような未来を予想していたのであり、世界崩壊後のプラン作りも博士は喜んで行っているのである。

水爆が抑止力になるなんて嘘もいいところである。水爆の爆発が決定的になると、博士は座っていた車椅子から立ち上がりこう叫ぶ!!「総統歩けます」ドイツ人であるストレンジラブ博士は機能を回復し立ち上がる。新しき総統=アメリカ大統領を前にして。