互いが互いを必要としている

映画「ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男(原題:Get on Up)」を観た。

この映画は、2014年制作の映画であり、この映画の主人公はファンクの帝王と呼ばれた黒人ミュージシャンのジェームス・ブラウンである。

映画の冒頭でいきなりジェームス・ブラウンはショット・ガンを車から持ち出して人前で発砲する。ジェームス・ブラウンといえば、ファンク・ミュージックの黒人ボーカリストとして有名なので、音楽の持つイメージと、ジェームス・ブラウンがショット・ガンを撃つ姿の間には深い溝があるように感じる。音楽のイメージとは愛と平和であり、銃からイメージされるのは戦争や殺人である。

ミュージシャンであるジェームス・ブラウンがなぜ銃を手に取ったのか?その理由は彼の孤独な生き方にあると、映画は観る者に語り掛ける。

ジェームス・ブラウンはアメリカのジョージア州オーガスタで幼少期を過ごしたとされている。そこでの生活は決して裕福なものではなかった。ジェームス・ブラウンの家庭は貧しく、ジェームス・ブラウンが幼い頃に母は家を出ている。そして、ジェームスを育てていた父もジェームスを身内の女性にあずけて軍隊へ入隊する。

父と母が居ず、金もない幼少期と少年期を過ごすジェームスのよりどころとなったのは、音楽だった。ジェームスの音楽の原体験は、父の歌う歌と教会で歌われるゴスペルだった。ジェームスの孤独を慰めてくれたのは音楽だったのである。

音楽を通じて信頼できる仲間も見つかる。その友達とはボビー・バードである。ボビーはジェームスが刑務所に居る時に親しくなった友達である(ボビーは刑務所に慰問公演して、実刑中のジェームスに出会った)。

ジェームス・ブラウンは強引なフロント・マンだった。バンドの練習も、バンドの音楽性も、バンドの給料もすべてジェームスが仕切っていた。強引な仕切りやで、ある時脱税の疑惑が持ち上がり、それがきっかけでバンド・メンバーのたまった不満が爆発し、バンド・メンバーは去って行った。

その際は残ってくれたボビーだったが、その後のジェームスの「お前は俺が居るから今の地位があるんだ。お前独りでは何もできない」という冷たい言葉にジェームスはボビーの元を去って行く。

父も母も友達もジェームスの元を去ってしまう。妻との仲もうまくいかなし、子供(テディ)は死んでしまう。ジェームスは一人孤独である。

映画のラスト、ジェームスは意地を張らずに友ボビーに対して歌う。「君なしでは生きてゆけない」と。映画ではジェームスとボビーとの出会いの時と同様、歌による合一で終わる。

映画中ジェームス・ブラウンがバンドのメンバー全員に「すべての楽器はドラムだ!!」と言うシーンがある。ジェームス・ブラウンの音楽の神髄はここにあるのかもしれない。