階級の争いを超えた愛

映画「ミツバチのささやき(原題:El espiritu de la colmena)」を観た。

この映画は1973年のスペイン映画であり、1975年にフランシス・フランコ独裁政権の終わる直前に作られた映画である。この映画にはフランコ政権に対する否定的な見方が現れている。

スペインでは1936年の2月の総選挙で、左翼勢力を中心とする人民戦線内閣が誕生し、このことによって右派であったフランコカナリア諸島総督に左遷された。人民解放政府は社会主義の理念に基づく改革を行い、その中で教会の財産を没収し、ブルジョワを弾圧した。

この人民戦線の改革を農民は支持したが、地主、資本家、カトリック教会などの保守勢力と知識層は、この人民戦線による改革に反対をした。

1936年の7月にスペイン領モロッコで軍隊が反乱を起こしたのをきっかけに、スペインの内戦が生じる。1936年10月1日に内乱を制したフランコ国家元首となり、フランコ独裁政権が誕生した。

独裁には犠牲がつきものである。スペイン内戦とフランコ独裁政権下で市民11万4千人が殺害されたか、行方不明になっている。力での抑圧が独裁である。

この映画の中では、1940年頃のスペインのカスティーリャのオユエロス村で暮らす一家族が登場する。この家の家主はミツバチについて観察をしている知識人のフェルナンドという男であり、家は立派な屋敷で、家政婦も雇っている。つまりこの家はブルジョワ知識人の家である。

フェルナンドには妻テレサとの間に2人の娘、イザベルとアナがいる。イザベルとアナは映画中、映画「フランケンシュタイン」を村の公民館で観る。映画「フランケンシュタイン」を観た後にイザベルはアナに言う。「あの怪物は精霊なの。私は精霊のいる所を知っているわ。畑の中にある小屋よ」。アナは映画「フランケンシュタイン」中で、フランケンシュタインがメアリーという少女と仲よく遊んでいるシーンをじっと見つめている。

アナはある日精霊が出る小屋の中に一人の傷ついた青年がいるのを見つけ、その青年にリンゴを渡し、家から父フェルナンドの服を持ってきて、汚れた服を交換してあげる。この傷ついた青年こそは、フランコ政権に弾圧されてきた市民の、あるいは左派勢力の、もしくは農民の象徴であるのではないだろうか。

アナが見つけて介抱した青年は独裁政権の側の人々に見つかり銃殺される。そのことを知ったアナは、精神的に不安定になりふさぎこんでしまう。

この映画の中の印象的なシーンに、父フェルナンドが毒キノコを踏み潰すシーンがある。父フェルナンドが右派独裁政権側なら、このキノコは左派もしくは市民なのではないだろうか?

落ち込んでいたアナは、この映画の最後のシーンでアナは精霊(青年)とのつながりを信じ回復する。