権力者による弾圧

映画「別離(英題:Nader and Simin,A Separation)」を観た。

この映画は2011年に発表されたイラン映画である。イランは映画に関しても政府の検閲は厳しい。この映画の中では、アメリカ映画にみられるようなキス・シーンは出てこない。もちろんセックスのシーンもない。この映画の中で娘が祖父にキスをするのを暗示するするようなシーンがあるが、娘と祖父の姿は壁越しに隠されていて直接見えない。これは、イラン政府の検閲を通過するように、映画制作者側が自主規制しているものだと思われる。

イランでは男と女の触れ合いは、例え親密な間柄を描いたものでもタブーなのである。不倫のセックスを描くことは到底できないであろう。(イランでは芸術そのものが、政府の検閲の対象になっているようである)

この映画では2つの夫婦、家族の対立が描かれている。

ナデル(夫)とシミン(妻)という夫婦がいた。シミンはイランから出国したいと考えている。イランから出てイラン以外の自由な場所で暮らしたいのだ。しかしナデルはナデルの父がアルツハイマー認知症のため心配なのでイランから出ることはできないと言う。

このことが原因でシミンはナデルの元を離れて、ナデルは父の介護のために家に介護人を雇うことになる。その介護人が夫ホッジャトを持つ女性ラジエーである。ラジエーはナデルの父の介護中にナデルの父をベッドに縛り付けて(ラジエーがいないうちにどこかに行かないようにして)外出してしまう。

そこにナデルが帰宅する。ナデルはベッドに縛り付けられて意識を失っている父を発見する。ナデルは帰宅したラジエーを外に追い出す。その時ラジエーは転倒する。ここで映画の中でポイントとなる問題が発生する。ラジエーは妊娠中だったのである。

ラジエーは流産をする。流産の原因はナデルがラジエーを追い出して転倒させたことにあると、ラジエー夫婦はナデル夫婦を訴えるのであった。

この映画ではナデルが、ラジエーが妊娠しているのを知っていて、ラジエーを押し倒したのかどうかが問題となる。ナデルはラジエーがナデル家に来ている家庭教師と妊娠について話しているのを聞いていたのかどうか?

ナデルが、ラジエーが妊娠しているのを知っていて、ラジエーを押し倒したのならば、ナデルに実刑判決が決まる。その事実を隠ぺいするために嘘に嘘が重ねられていく。

この映画の中で違和感を覚えるのは、イランでは男性の権力が極めて強いということである。ラジエーは夫ホッジャトのことを異様なほど気にかけている(「嘘がばれたら夫に殺される」)し、ラジエーはナデルの父が粗相したのに、それを洗ってやることも許されない(夫を持った女性が夫以外の男性の裸を見ることは宗教的タブー!!だからラジエーはナデルの父の粗相を洗うことができない)。

女性の地位はイランでは特に低い。日本もイランほどではないが、男女の格差はある。例えば、男女の雇用の平等さ。「女性は結婚したら職場を辞めるから」が常識になっているのではないのだろうか?