危険なものほどクール

映画「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇(原題:Narco Cultura)」を観た。

この映画は2013年のアメリカ・メキシコ合作映画であり、メキシコの麻薬カルテルとその周辺の出来事について描いた映画だ。

周辺の出来事と書いたが、出来事の中心となっている麻薬カルテルの実情については、このドキュメンタリー映画ではあまり直接描かれることはない。むしろこの映画で描かれるのは、麻薬カルテルが原因の殺人とか、麻薬カルテルを追う警察や、麻薬カルテルの人たちの生き様を美麗に描く歌手についてだ。

メキシコの麻薬カルテルアメリカに麻薬を密輸し売買することにより収益を得ている。その額は400億ドルという額だ。そのメキシコの麻薬カルテルはメキシコ政府と激しい対立関係にある。

そのメキシコの麻薬カルテルの最大のカルテルは、メキシコのシナロア州のクリアカンを拠点とするシナロアカルテルだ。そしてシナロアカルテルのボスはエル・チャポ(グスマン)という。

とにかくこの映画では、人の死体がいたるところに登場する。メキシコカルテルとメキシコ政府との闘いで罪のない一般の人たちが次々と殺されている。一般の人たちだけでなく、政府対カルテル、もしくはカルテルカルテルの闘いで、カルテルの人間や政府の人間(つまり警察)が多く死んでいる。

そして、メキシコのカルテルの人々を描いた音楽ジャンル、ナルコリードは人々のあいだでもてはやされている。音楽だけではない。メキシコの麻薬カルテルを描いた映画も人気を呼んでいる。

つまりアメリカやメキシコでは、カルテルの人間であることがクールであると若者のあいだでもてはやされている。多くの人々がそのために命を落としているにもかかわらずだ。

例えばこの映画の中に登場する歌手オドガー・キンテロがこの映画では典型例として描かれている。オドガー・キンテロは、アメリカのロサンゼルスに住んでいる。キンテロはメキシコの麻薬カルテルの情報をインターネットで集めてそこからナルコリード(直訳すると麻薬バラード)の歌詞を書いている。

キンテロはメキシコのカルテルがクールだと思っている。メキシコ人の心のあり方はその真逆だとキンテロは理解できない。ナルコリードが流行し、それを聴く人が沢山いて、歌も人気を集める。

キンテロは言う。「ぼくは、本当のメキシコを知らない。メキシコに行って、メキシコを生で感じたい」と。メキシコの人たちは麻薬戦争にうんざりしている。カルテルの拠点であるメキシコのシウダー・フアレスの人たちの表情は悲しそうだ。フアレスの向こう側のアメリカの人たちよりもはるかに。