被害者と加害者

映画「エル ELLE(原題:Elle)」を観た。

この映画は2016年のフランス・ベルギー・ドイツ合作映画で、映画のジャンルはスリラーだ。この映画のタイトルはフランス語で彼女を意味する。

この映画のタイトル通り、この映画の主人公はミシェルという女性(=彼女)だ。ミシェルは50代ぐらいの女性で、両親を持ち息子と息子の妻もいる。又、映画中両親は死ぬが、息子と息子と妻との間には、息子の実の子ではないが、子供が生まれる。

この映画の冒頭でミシェルは黒い覆面の男に襲われる。そしてレイプされる。しかしミシェルはレイプされたことを通報しない。レイプの犯人はミシェルの隣人のパトリックという男だ。

パトリックは暴力的な行動をとることでしか、性的に興奮することができない。いわゆる性的倒錯者だ。

ミシェルはそんなパトリックの歪んだ性欲を何と映画中で受け入れようとする。しかし、ミシェルはパトリックと自身との関係を歪んだものだと認識して、パトリックがミシェルをレイプしている最中に息子のヴァンサンに頭部を打撃させる。

このシーンの前でミシェルはこう言う。パトリックに対して。「あなたは、これが初めてじゃないわね。もうこんなことは終わらせましょう」と。

パトリックが女性をレイプしたのは1度だけではないとミシェルは推し測る。そしてパトリックの妻もパトリックの性的被害者の1人だったのではないかとこの発言から予測できる。

映画の最後の方でミシェルとパトリックの妻レベッカと会話するシーンがある。レベッカは言う。「ミシェル。あなたがパトリックの倒錯した性愛を受け入れてくれたことに感謝します」と。

ミシェルもレベッカもパトリックの性的倒錯について、パトリックが加害者であり、しかしながらもしくはパトリック自身が、自身の歪んだ性愛の犠牲者でもあったととらえているような視線がここには見られる。

しかしレイプはあくまでレイプだ。しかしそこで加害者が加害者になってしまった経緯を理解せずには、レイプの防止には繋がらない。

この映画の主人公ミシェルの父は27人の人を殺した殺人犯であり、母は若い男をあさるし、ミシェルの友人の夫とミシェルは浮気しているし、ミシェルの元夫の恋人の食べ物の中にミシェルは楊枝を入れる。

とにかくミシェルの存在は通常の通俗的な存在ではない。世間の目を超越しているところにミシェルはいるのかもしれない。レイプの被害者でありながら、レイプの加害者の気持ちを理解する女性ミシェル。そのミシェルの姿は、キリスト教徒たちの前にも悪として映るのだろう。