時の癒しを待つ

映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー(原題:Manchester by the Sea)」を観た。

この映画は2016年のアメリカ映画で、ドラマ映画である。

マンチェスター・バイ・ザ・シーとはアメリカ合衆国マサチューセッツ州エセックス郡ケープアンに位置する街の名前である。短くしてマンチェスターとも呼ばれる。

この映画の主人公リー・チャンドラーはマンチェスターで生まれ青年期の初期までマンチェスターで過ごした青年であり、暗い過去を持つ男である。

リー・チャンドラーの暗い過去とは何か?それは映画の中盤で明らかになる。

リー・チャンドラーにはランディという妻がいて子供も3人いた。子供の名前はスージーとカレンとスタニーである。ある日の夜、地元の仲間とはめを外して集団で自宅に帰ってきたリーは家の暖炉に木を2、3本くべて近くの店へ出かけた。

その時リーは暖炉にスクリーンを立てておくのを忘れていた。しかもその時リーは仲間とはめを外していた。はめを外すとは、マリファナやコカインをやり酒を飲むということである。

リーが買い物から帰ると家は火に覆われていた。妻のランディは逃げ出して助かったが、子供たちは逃げ遅れて火の海に包まれた。リーは警察から取り調べを受けるが、警察はリーに対して「これは誰にでも起こりうることだ。君に罪はない」と言いリーを開放する。

リーは自分に対する戒めの機会を失うことになる。つまりリーは自分の罪の償いをどうとっていいのかわからなくなるのである。

この映画ではリーの兄のジョーが死に、その息子パトリックの養育権がリーに託される。そしてリーがパトリックの面倒をみることになる。

ジョーの死から映画はスタートして、パトリックの身の振り方が定まるところで映画は終わる。この時系列の流れの途中にリーの過去がフラッシュバックのように回想される。

映画の中盤で、リーの苦悩の理由がわかると、次にリーがどのように贖罪を求めていくのかに焦点があたるようになる。

この映画では、父を失ったパトリック、子供を火事で亡くしたリーという2人の感情の回復を描いているといえる。

リーは感情の抑えが効かなくなるとすぐに暴力を振るってしまうタイプの人間である。リーの心が深く傷ついていればいるほど、リーの体は肉体的にも傷ついていくのである。ガラス窓を素手で殴り出血したり、バーで人に殴りかかり返り討ちにされたり。

映画の最後の辺りでリーは言う。「俺は乗り越えられない」と。リーの犯した罪は乗り越えるというよりも時が癒すのを待つしかないタイプの問題なのかもしれない。

リーは自分を責めるあまり、自身に対する好意に対しても自虐的に無視を繰り返す。リーの罪悪感は消えないかもしれないが、リーのそんな姿を見ていると時が癒すと信じてしまいたくなる。